千年女優

野火の千年女優のレビュー・感想・評価

野火(1959年製作の映画)
3.5
日本軍敗戦が濃厚となった太平洋戦争末期のフィリピン。肺病を患ったため部隊から見捨てられ、赴いた野戦病院では食料不足を理由に入院を拒まれた一等兵の田村。挙句の果てには手榴弾での自決を命じられて途方に暮れる彼が、あてどなく山間を歩き回って同様に行き場を失って狂気に走る同胞を目の当たりにする様を描いた戦争映画です。

戦前から監督業を始めて日本映画を支えて日活移籍後に制作した『ビルマの竪琴』のオスカー外国語映画賞ノミネートで国際的にも評価された市川崑が脚本を務めた和田夏十の企画で大岡昇平の同名小説を映画化した1959年公開の作品で、国内の映画賞を獲得するとオスカーにも日本代表で出品されましたがノミネートまでは至りませんでした。

戦争の現実を描く原作を男前故無表情が空虚さ醸す船越英二が体現していて、それを時代感じる白黒の映像と芥川也寸志の音楽が盛り立てます。後に大岡からも言われた通りやや解釈としてはマイルドでその点で後の塚本晋也版と比べられてしまう所はありますが、あらゆる尊厳を奪われた末に迫られる人間性の取捨選択に胸が詰まる一作です。
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