Mikiyoshi1986

野火のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

野火(1959年製作の映画)
3.9
本日2月13日は市川崑監督の没後9年目に当たります。
生きていれば御年101歳。

市川崑といえば金田一耕助シリーズが有名ですが、「ビルマの竪琴」と並び太平洋戦争の惨状を描いた本作「野火」は決して絶やしてはならない日本映画のひとつ。
最近では塚本晋也がリメイクして話題になりましたね。

戦時中、太平洋の島々に送り込まれた日本兵たちは、それはそれは苛酷な戦況の中を生き、
この舞台となったフィリピンだけでもおよそ50万人の日本兵がお国のために戦死したと云われています。
私の家系にもガタルカナル島で戦死した者がおりますが、中でも当時の戦死者の大半は餓死や病死だったとか。

この原作者の大岡昇平も従軍の末にその地獄を目の当たりにし、捕虜となって無事帰還した戦争経験者のひとり。
極限状態の中で人間が次第に理性を疲弊させ、生存本能のままに"動物"へと成り下がっていく過程を淡々と描いていく様子は、モノクロの重苦しさだけがスクリーンを支配します。
犠牲を払うだけの戦争の無益さと、人間性が剥ぎ取られ非人道性が剥き出しになる惨状。

ちなみに大正生まれの市川崑は当時召集令状を受け取ったものの疾患によって徴兵を免れており、
「ビルマの竪琴」と同じく妻で脚本家の和田夏十と共に、二人三脚で本作を制作したのは大変興味深いポイント。

45年に終戦、その後経済白書にて「もはや戦後ではない」の一文が記載された56年。
59年に上映された本作は戦争の古傷を癒しながら復興を遂げた日本人にとって、反戦の確固とした決意を印象づけたことでしょう。
また、遠い異国の地で散っていった同胞に捧げる哀悼の思いが、従軍できなかった市川の胸にはあったのかも知れません。
Mikiyoshi1986

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