【市川崑特集⑤ 腹が減っても戦をさせられる】
『比島決戦の歌』というのがある。軍部によって「いざこいニミッツ!マッカーサー!」と歌詞を改変されたが、当初の詞ではこの部分が「レイテは地獄の三丁目」だったそうな。
その歌詞の文句のごとく地獄を描いたのが市川崑監督の『野火』である。
大岡昇平の同名作品が原作で、数年前に塚本晋也監督が手掛けたことで再び脚光を浴びたように思う。
オープニングで、クレジットがレイテ島の大地に沿って表示されて、デザイン的にもカッコいい。
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戦争末期、フィリピン戦線でのレイテ島では連合軍の爆撃により日本軍は敗走を余儀なくされる。
船越英二扮する主人公の兵士は所属部隊からは肺病のために追い出され、野戦病院からは食糧不足のために入院を拒否される。
他の敗走兵と共に集結地へ向かう主人公だが、その道中で彼は恐ろしい地獄絵図を目の当たりにすることになる。
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同じく市川作品でも『ビルマの竪琴』ってやっぱりファンタジー映画なんだなぁと本作を観るとつくづくそう感じる。
自分の糞尿をムシャムシャ食べる浜村純に思わずウギャー🤮と声をあげてしまった。
そして本作の肝であるカニバリズム。最初はどことなく匂わせるレベルで、段々と真相を明らかになるにつれ最後は背筋が寒くなってくる。
若き頃のミッキー・カーチスが素晴らしく、重鎮・滝沢修と並んでも全く遜色がない。そのものずばり役を食っちゃっている。
一見すると滑稽にも思えるシュールな展開(兵士が次々とブーツを履き替える場面など)に戦争の不条理さがかえって際立ったように思う。
どことなく虚ろで何を考えているかわかりにくい感じの船越英二が主人公だからこそ、この世界観に説得力を感じる。
■映画 DATA==========================
監督:市川崑
脚本:和田夏十
製作:永田雅一
音楽:芥川也寸志
撮影:小林節雄
公開:1959年11月3日 (日)