ブタブタ

ときめきに死すのブタブタのレビュー・感想・評価

ときめきに死す(1984年製作の映画)
4.5
村上春樹の1Q84は今時女殺し屋やラノベにも出て来ない様な巨乳美少女の不思議ちゃん「ふかえり」等、余りに詰まらなくて1巻で読むのを止めてしまったのですが、この作品との類似を指摘する評をよんで最後まで読めばよかったなと思いました(今更読む気もしませんが)
公開年が1984年、近未来の全体主義国家の恐怖を描いた小説『1984』そして『1Q84』それぞれ共通するテーマは時代そのものの空気や不安感、得体の知れないカルト宗教や支配者への恐怖とでも言いますか。
1Q84に「近過去(イタリア語との事)」と言うワードが出てきて近未来と対になるだけでなく、近未来がまだ訪れていない未来である様に近過去もただ過ぎ去った過去ではなく存在しない過去、記憶の中の現実とは違う世界、別の時間軸などを表す意味を持つらしいです。
初めて見たのは中学生の頃で正直退屈で全く意味が分からなかったのですが現在から見た1984年と言う「近過去」としてこの作品を見るとかなり違った印象、内容に思えました。
この頃はバブル前夜、阪神大震災とオウムによるテロはこの10年後なのですが、新興宗教と思われる組織、その指令によってテロリストとして養成・訓練される主人公、監視役の男と女、外界から隔絶された世界、その目的も一切が不明。
インチキ空手家を教祖とする安っぽい新興宗教はどう見てもオウムにしか見えず、この時代にはまだ何も起きていない筈なのに別に予言していたとか言うつもりは無いですが、まるでこの先に現実に起きる出来事の下準備があの信州(ロケ地は北海道)の別荘で黙々と行われていた、沢田研二演じる工藤の様な男は日本中ひょっとしたら世界中に居てテロリストの訓練を受けている。
長谷川和彦『太陽を盗んだ男』でも沢田研二は家で原爆を作ってしまう高校教師―テロリストを演じていたけど、思想も何も無くただ退屈で暇潰しに原爆を作った様に工藤も特に目的がある訳でなく虚無的で生きる気力も何も無く言われるがまま組織の命令に従って暗殺の訓練を受けている様に見える。
でもそれは自分の意志がないとか逆らえないとかでは無くこの世界にとっくに見切りをつけていて死に場所を求めた結果と言うか、工藤にとっては組織も目的もどうでもいいのだろうし、原爆を作った高校教師と同じく死ぬ迄の暇潰しでしか無いのだろうし、あの組織はそういう人間を見つけ出して集めていると思うと不気味さも感じます。
村上春樹の地下鉄サリン事件インタビュー集『アンダーグラウンド』の方が寧ろ1Q84よりもこの作品のあるもう一方とでも言いますか。
『アンダーグラウンド』は事件に巻き込まれた側・被害者側のドキュメントですが、それに対しこの作品は事件を起こした側・計画した側のドキュメントの様にも思えました。
それと宇多丸氏の『そこのみにて光り輝く』の作品評で、この作品との共通点や影響、オマージュ的な物があるのでは語られていたのですが確かに北海道と言うロケ地以外も曲がりくねった道をドライブするシーン、舞台となるが北の地方の「冷たい夏」と言う季節、それと男2人と女1人の3人による「擬似家族」世界から見捨てられ誰にも救われる事がない3人だけの世界を構成するところも似ていると感じました。