シズヲ

泳ぐひとのシズヲのレビュー・感想・評価

泳ぐひと(1968年製作の映画)
4.4
白昼夢を見せられているような奇怪映画。「友人の家を梯子してプールで一泳ぎしながら自宅を目指す」というだけの超単純な話なのに、まるで寓話か何かのような雰囲気に溢れている。「冒頭から何の説明もなく水着姿の主人公が林から現れる」「季節が高速で流れていることが示唆されている」など諸々の描写も異様で幻想的。もはや解説を見なければ全貌を咀嚼することは出来ない気がするけど、それでもこのシュールな作風は嫌いになれない。

主人公の零落が黙々と描かれるのが実に不気味。最初は活力満点で友人にも恵まれていたのが徐々に虚勢のメッキを剥がされ、次第に孤独な正体を暴かれていく。物語の進行と共に少しずつ覇気を失っていく主人公の姿は何処までも哀れで切なくなる。若々しい肉体を見せつけていた水着姿も、終盤に差し掛かる頃には完全に裸の王様同然に映ってしまう。過剰で尖った演出もなく、淡々とそういう展開を描写しているのが好き。物語としての合理性以上に不条理が際立ち、まるでお伽噺のようにふわふわした空気感が漂っている。どこまでも示唆的で不思議な映画なのだなあ。
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