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獣人島のhorahukiのレビュー・感想・評価

獣人島(1932年製作の映画)
4.3
獣から人を生み出す禁断の研究

漂流してたところを偶然通りかかった交易船に助けられた主人公パーカーは、婚約者の待つ港にそのまま乗せて行ってもらえることに。ところがイザコザがあって、地図に載ってない無人島で降ろされてしまう…。そこはイギリスから追放されたモロー博士が禁断の研究を行なっているヤベェ場所だった…。

HGウェルズ『モロー博士の島』(未読)の映画化作品で、マッドサイエンティストが人の領域の向こう側へと足を踏み入れてしまったことに対する罪と罰を描いたSFホラー。恐らく『フランケンシュタイン』からの影響を強く受けているだろうことが想像されるめちゃ面白い作品でした。

フランケンシュタイン博士のようにモロー博士も人間を創造しようとしているのですが、彼方が死体からの生命の創造だったのに対し、こちらは動物を人間化しようとする。

生物を強制的に別の存在へと変貌させるという発想は、それだけで生理的な嫌悪感を覚えるものなのに、「動物→人間」という進化の過程を一瞬で飛び越えることを人間の手で行うという実験自体が「人間」という種族そのもののアイデンティティや地位を揺るがすような根源的な恐怖を煽ってくるから不快感が半端ないし、その線引きの傲慢さを批判されてるような感覚に陥らされる。進化論とか全く詳しくないんですけどね…。でも水生?の説とか結構好きです。

島には完全な人間になり切れなかったモロー博士の失敗作が沢山いるのですが、恐怖と権力によって押さえつけられモロー博士の奴隷となっている。彼らの特殊メイクはどれも中途半端なのですが、それがかえって半人半獣であることに説得力を持たせていて、ビジュアル的にも嫌悪感を煽ってくる。クライマックスの迫ってくる演出はマジで凄い!あのメイクであるということを最大の利点だと意識しているからこそのもので、見てる側からしたらめちゃキモイ!でも文字通りな女豹さんは良い感じにエロかった!

その奴隷たちの中で一番賢そうな奴をベラルゴシが演じてるってDVDパッケージの裏に書かれててビックリ!全然わからんかった…。高貴さの権化のようなドラキュラ演じた後に、薄汚れた獣人やらせるとかユニバーサルに喧嘩売りたかったんかな(笑)本人も金なかったから贅沢言ってられなかったんでしょうね…。

そして表情に重なる陰影のつけ方が凄く印象的で、助けられたパーカーの表情の時点でテンション上がったんだけど、モロー博士演じるチャールズロートンの表情の演技に対して何倍もの重みを加えるようなつけ方は鳥肌立つレベル。影→光→影となるとことかめちゃ好きでした。モロー博士の島そのものが恐らく技術的・文明的発展に伴う人の傲慢さの象徴なのだろうし、ある種の縮図としての意図もあるのだろうけど、その島は地図に載っておらず誰も知らない(目を向けようとしない)という設定や、島を霧が覆い隠しているという舞台の見せ方も印象的でした。

上下左右縦横無尽に動くカメラ。その後に上にグッと動かしたかと思うと自然の中のフレームに奥行きのある空間が現れる見せ方とか、陰影でボンヤリとしか表情が見えない獣人たちの異様さとか、マジで骨折とかしてそうな船の上から突き落とすシーンとか、映像の魅力が凄すぎるのも良かったです。

支配層の人々は白い服を身につけ、奴隷たちは衣装も見た目も薄汚れたものを身につけているわかりやすさも当時の世相の反映なんだろうけど、白い人々の気持ち悪さを強調する結果となっていて、意図的な批判を含んでいるように思えるところも良かった。必要以上の贅や驕りを見にまとっていくというのはブニュエルの『この庭に死す』にも見られるイメージだけど、両作とも伝わってくるキモさがすげぇなって思った。傲慢に支配された人間は、そこから湧き上がってくる更なる傲慢さで破滅するわけです。

これは紛うことなき傑作だと思います。同時期の『フランケンシュタイン』よりも圧倒的にこちらの方が好き。本作は怪奇路線のユニバーサルに対抗したパラマウントの映画なわけですが、ケントン監督はその後ユニバーサルの『フランケンシュタイン』シリーズの監督しちゃってるのが面白いですね。どういう経緯だったんだろ…。
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