ろ

イレイザーヘッドのろのレビュー・感想・評価

イレイザーヘッド(1976年製作の映画)
5.0

泣きながらちぎった写真を 手のひらに繋げてみるの
悩みなき昨日の微笑み 訳もなく憎らしいのよ

つらいときは決まってこの歌い出しが思い浮かぶ。
爆発寸前の不安や恐れがだらだらと続く。
心の中の振り子は右へ左へ行ったり来たり。
そんな捉えどころのない、実体のない気持ち悪さをヘンリーと一緒に味わっているような気がした。

ぬかるみに足を取られながら薄暗い工場を抜ける。
へその緒みたいに太いチューブが絡み合う。高く鈍い金属音が頭に響く。
のろのろと閉まるエレベーター、不安げに点滅を繰り返すライトはヘンリーの額の皺をさらに深く刻む。

レコードを聴いても頭の中のノイズは消えない。
ヘンリーの部屋を侵食するような黒いもじゃもじゃ。2つに裂かれた写真にはヘンリーの恋人メアリーが写っている。

間の抜けたハト時計。
お父さんが張り切ってこしらえる小さい人工肉のグリル。
お母さんと遠い目のおばあちゃんが無表情でかき混ぜるシーザーサラダ。
取り分けようとしたチキンは足をばたつかせながら血を流し、メアリーはしくしく泣き出す。
「わたしと結婚してくれる?」
「もちろんだよ」
鼻血をおさえながら斜め上を仰ぐヘンリーはなにかがガラガラと崩れる音を聞いた。

ごはんを吐き出す未熟児の赤ん坊は謎の発疹でぶつぶつだらけ。
出て行くメアリー、残されるヘンリー。
不安はきしむような音を立てながら散り、またひとまとまりになってざわざわと忍び寄る。

鉛筆の頭にちょこんと乗る消しゴム、イレイザーヘッドのように大量生産される、かき消すことのできない漠然とした不安や恐れ。
暗い穴の底から空を見上げる。
ホコリまみれの室内機の隙間から、なにをしても自由な天国を夢見る。


( ..)φ

鑑賞中よぎったのは「あの日にかえりたい」だったけど、
エンドロールが終わって聴きたくなったのは「東へ西へ」だった。

春、新京極を歩きながら繰り返し聴いた「東へ西へ」。
そうそう、この映画はあの曲の世界観なんだよね。
ガンバレ みんなガンバレ 黒いカラスは東へ西へ

お母さんがゲー!みたいなことになっても、娘が泣きながらその後を追っても、張り付いたような笑みを浮かべて目をパチクリさせるメアリーのお父さん。なんか人生だよなぁって、家族ってこうだよなぁって笑っちゃった。食卓ってカオスなんだよなぁ。
あるあると悪夢を、理想と現実を、本音と建前を行ったり来たりするデヴィッド・リンチ。
ろ