アンダーシャフト

キングダム見えざる敵のアンダーシャフトのレビュー・感想・評価

キングダム見えざる敵(2007年製作の映画)
4.2
「MILE22」つながりで再視聴。
ハッピーエンドを期待する方にはオススメしない一本。

まず興味深いのは導入部分。
アメリカの探険家によって偶然油田が発見されて以降、サウジアラビアがどういう経緯で親米となり、イスラム保守派から不信を買い、中東戦争、ビンラディンの登場、アルカイダ、そして9.11へと至る一連の流れをダイジェストで見せてくれる。この冒頭で、中東諸国とアメリカの関係性がザクッと理解できるのは、無知な自分にはとても助かる。

サウジアラビア。リアドの外国人居住区で自爆テロ発生。300名以上の死傷者を出す惨事となる。
FBI捜査官ロナルドは、このテロで同僚が死んだことを報告し現地での捜査を強く上申するが、外交上の都合で却下。そこで、サウジアラビア駐米大使とコンタクトを取り、半ば脅迫に近い交渉で現地入りを許可させる。
ロナルドらサウジアラビアに向かったFBI捜査官たちは、5日の期限内にテロの首謀者にたどり着かなければならない…

とにかくシリアスで遊びがない。緊張感の連続。
勝手に乗り込んできたんだから当然かもだが、到着するなりいきなりの制約と監視。捜査手法、外出、言葉遣いにまで注文が付く。一方、満足に捜査らしい捜査をしていない現地警察。はかどらない意思疎通。募っていく苛立ち。不信感と焦燥感。それらが細かいカット割りやいきなりパンするカメラワークで細緻に描き出されている。
安定しないフレームワークは、時々ニュースのライブ映像を見ている気分にさせられる感じ。その場にいるような臨場感が、観る側を事件現場へと引っ張り込むようだ。

もちろん、銃撃戦のシーンはリアリティがあり、畳み掛ける凄まじい迫力と、どこに行っても四面楚歌の緊迫感は、この作品の大きな見せ場だ。でも、そこに至るやりとりの密度が高いから、クライマックスが生きてくる。

国、人種、宗教…それぞれに正義があり、その主張によって敵が生まれるのも必定なのだろう。でも、正義というパッケージを開けて中身を見てみると、意外に貧困、差別、格差、怨恨、憎悪、嫉妬といったものがその奥に詰まっているのかもしれない。
神様の名の元に人を殺すのも殺されるのも、まっぴらごめんだ。もちろん、正義の名の元でも。これを続ける限り、中東から怨嗟の声や報復の連鎖が消えることはないのだろう。

この作品を観て、こんな単純で一般的な感想しか沸かない自分は、きっと平和ボケなんだろうな…そんなことを考えさせられる一本です。