カタパルトスープレックス

穴のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

(1960年製作の映画)
3.9
ジャック・ベッケル監督の遺作で脱獄モノの傑作のひとつです。

脱獄映画には二つの大きなポイントがあります。
1)どうやって外に出るか問題
2)どうやって捕まらずに遠くに行くか問題

この映画のすごいところはこの二つのポイント以外の「落とし穴」を設定したことだと思います。あ、だから『穴』というタイトルなの?二重の意味で。

舞台はパリのサンテ刑務所です。実際にあった脱獄事件が元になっています。同じ部屋に収監されている五人が脱獄を計画する話です。果たして五人は計画通り脱獄できるのでしょうか?という話です。

実際にあった話の上、脱獄メンバーのひとりが役者(ロラン役のジャン・ケロディ)として参加しています。そのため、脱獄のプロセスが非常にリアルです。「どうやって外に出るか問題」で中心となるのが「音」と「廃棄物」です。本作では「音」が非常に効果的に使われています。おいおい、その音ヤバイだろ!とてもハラハラします。「廃棄物」は脱獄モノのクラシックである『大脱走』ではかなり地道な作業でしたよね。穴を掘れば、土や石を隠さなければいけない。本作での作業は部屋の中で行われるため、隠す場所がないんですよ。そこまで考えてあの穴を掘ってたのあとしたらスゲーなと。実際にあった話なので、ちゃんと考えていたのでしょう。

サスペンス映画では計画通りにことは運びません。それがハラハラドキドキになるのですからしょうがないです😅。すべて計画通りに順調にことが運べば、それはサスペンス映画ではないですし。本作もそうです。観客の予想と違う計画の破綻ではないほど、サスペンスのカタルシスは大きくなります。

続きはネタバレになりますのでコメントで。

シナリオとは関係ない部分でさらに分析しますと、間の取り方がとてもうまいです。この作品はサスペンスであると同時に、心理劇でもあるのです。会話の場面でかなり冗長なシーンがいくつかあります。会話と会話の間が大きいのです。そして、会話の後の余韻も長い。この会話と会話の間の空白が心理劇として非常に重要な役割をしています。

優れたフランス映画って単なるサスペンスではなく、何かひねりがあるのがいいですよね。