harunoma

穴のharunomaのレビュー・感想・評価

(1960年製作の映画)
4.1
肉体の冠以外に、あまりベッケルのいい記憶を持たないし、こんなものかと観ていたら、いきなりコンクリを砕く(本当に砕いている1カットで、人力トンネル掘削工事ドキュメンタリー )轟音に呆気にとられ、穴を穿つとはこれだ。こんな凶暴な脱獄の音は見たことがない。即物であり唯物であった。彼らの労働は美しい。すごく適当だけど、メルヴィルとブレッソンを足したような映画に見えた。抵抗(『死刑囚は逃げた、あるいは、風は己の望む所に吹く』)の方に軍配が上がるのは言うまでもない。

鈍刀のように反復される彼らの日常が、後半30分で俄然面白くなる。金髪の少女が『スリ 〈掏摸〉』のジャンヌではやはりなく、彼の視線の格子越しに切り返されるのに、顔を素早く怒涛の如く伏せるからか。穴はスクリーンに穿たれる、瞳や手によって。その穴は後年、カラックスの『Merde(メルド)』へ向けて繋がるだろう。地上はもはや近未来であり、抵抗の鐘の音が聞こえる。ベッケルの遺作であるという。エンドクレジットにルビンシテインの2つのメロディのピアノが恐ろしくスローテンポで流れているのは、これはなんだろうか。
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