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赤い殺意のkurageのレビュー・感想・評価

赤い殺意(1964年製作の映画)
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東北の田舎町に住む主婦の成長譚、夫婦の物語。
主人公、貞子(春川ますみ)は、ぽっちゃりと大きな体格やぼーっとした風体、妾の家系などの理由から内縁の夫である吏一(西村晃)や姑に虐げられられ、一人息子の勝だけが心のよすがの日々を過ごしている。

夫と息子が留守の夜に、強盗の平岡(露口茂)に襲われてしまう貞子。だが、平岡は行為の後に奪ったお金を置いて出て行ってしまう。
夫に事件のことを打ち明けられず、自殺未遂をする貞子。平岡は貞子に惹かれ、また家に忍びこみ、彼女を強姦する。絶望し、また自殺を図るが、叶わない。一方、吏一には同じ図書館で働く義子という愛人がおり、彼女に結婚を迫られている...... と、設定だけで昼ドラドロドロなのだけど、これがコメディになっているのだから驚く。

今村監督考案の重喜劇にあたるジャンルになるそうだけど、一見にっかつロマンポルノ的ムードを漂わせつつ(こちらのほうがずいぶん前だけど)、時代もののファミリードラマのようでもあり。60年経てばそりゃあ人々の価値観も変わるよ、と。そういう意味でも貴重な表現が画面の端端にたくさん散りばめ、残されている。

吏一も平岡も本当に身勝手で、すぐにセックスを強要し、貞子も結局は受け入れる。男ふたりは一時的な欲求は満たしているが、実は何も手に入れていない。何も考えていない。貞子は、ぶつぶつと小声で愚痴りながら淡々と着実に自分の目的を果たしている。「どうしてこんなに不幸せなんだろう」と呟くたびに逞しくなっていく貞子に、長い抑圧に耐えてきた女の底力を感じた。

CGのない時代にどうやって撮影したんだろうと思うような挑戦的なシーンが多い。この時代の好きな日本映画は、たいがい姫田真佐久の撮影だ。
今村作品でお馴染みのビヨヨ〜ンの効果音は最初は違和感しかなかったが、数作見続けるうちにどのタイミングでビヨヨ〜ンがかかるのかなんとなくわかってきた。だんだんそのシーンが待ち遠しくなるように。

○以下、貞子らしさを感じられるシーン
アイロンに移る貞子の顔、どこかあきらめ
蒸気を吸入する吏一の表情(昔の吸入器、意外とパワーある)
電車で揉み合う平岡と貞子(貞子の踏ん張り、パワーある)
美容院でパックしながら不幸せだと呟くが、どこか弾んでる
ジャージャーという編み機の大きな音
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