継

ペルシャ猫を誰も知らないの継のレビュー・感想・評価

ペルシャ猫を誰も知らない(2009年製作の映画)
4.3
演奏許可が下りないテヘランに見切りを付け、ロンドンで活動する事を夢見るアシュカンとネガルのカップル。二人はパスポートとビザの偽造代金を含め、資金集めのライブをする為にバンドメンバーを探し始める。

'09年, イラン製.
タイトルは、公の場に出て演奏する許可が下りない国内のミュージシャンを、室内から連れ出すのを禁じられたペット=ペルシャ原産の猫に喩えたもの。

映画は、メンバー探しに様々なバンド・ミュージシャンの演奏を聴いて回りますが、これらの多くは政府の許可を得ずに行われたゲリラ撮影。
窮状を訴える物語としてフィクションは悲劇の体裁を取り、その実ドキュメンタリーとして外からは見る事が出来ないペルシャ猫たちの姿を撮らえた、バフマン・ゴバディ入魂の作品です。

シガーロスを観たいと目を輝かすアシュカンと、おっとりした口調が可愛い眼鏡女子のネガル。
多くのミュージシャンから偽造パスポート屋まで、様々なコネクションを持つ地下のプロモーター・ナデルを紹介され協力を依頼、行動を共にします。

合言葉で入る地下のスタジオ。
牛小屋で演奏してたら牛が乳を出さなくなったと笑うへヴィメタル。隣部屋で留守番してるガキに退屈しのぎに通報され楽器も押収されたインディロックバンド。ブルースハープで声を枯らすオルタナR&B、イランの伝統的楽器との混成で奏でる新進のペルシャ民謡、孤児院で弾き語るシンガーソングライター、ペルシャ語で韻を踏むラップ...
ただ愛する音楽を鳴らしたいだけの、純粋な衝動。
訴求力の塊のようなそれらの楽曲はバラエティに富んで、総じてクオリティが高いものでした。

反イスラム的と禁じられた西洋カルチャー、女性Voを認めずコーラスなら許す妙な女性蔑視、飼い犬を車に乗せていただけで停められる、抑圧的で息苦しい社会。

先月だったか、Eテレで放映したテヘランの現状を伝えるドキュメンタリー(BBC製作)は、警察に踏み込まれるのを恐れて外の気配を窺いながら催されるパーティーを紹介、今作から10年以上経つのに状況は全く変わってませんでした。
番組スタッフがショッピングモールでスマホを購入し、SNSを使いたいと尋ねると禁止だと一旦断った上ですぐ裏にある店を紹介する。そこで制限が施されたsimカードを外してフリーのカードと入れ替えてくれる仕組みが、暗黙の了解の様に半ば公然と出来上がっていて。
不満が爆発しない為のガス抜き。けれど締め付けがなくなることはないわけで、運悪く検挙された者は鞭打ち刑に処され、我慢ならない者は脱出を企てる。。

本作の「物語」をフォローすると、
公式HPによればアシュカンとネガルは映画の最終テイクの4時間後にイランを脱出し、現在ロンドン在住。ドラマーを見つけて、グラストンベリーやレディング・フェスティヴァルに出演することを目指しているとか。
ゴバディも今作完成後にイランを離れ、現在はイラクのクルド人自治区で保護(元々クルド人。)滞在中。
帰国すれば即逮捕される身で、新しい国籍の取得を目指しているらしい。
イランで上映禁止なのは言うまでもなく、表向き現在も
本作を誰も知らない 🐈。
継