垂直落下式サミング

バットマン リターンズの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

バットマン リターンズ(1992年製作の映画)
5.0
「クリスマスへの憧れと憎悪」
この陰キャっぽいモチーフは、特に初期のティム・バートン作品にはよく描かれる。
ところで、我らが蛭子能収大先生が言うことには、「幸せな家庭というのを人に見せたくないんですよ。みんな家族が仲良くしたりするじゃないですか。でも必ず不幸な人があっちこっちにいて、そういう家庭を見たら絶対恨んでるはずなんですよ。子供を可愛がったり、いい洋服を着せたり、それを傍からジーっと見てる人がいるんです」とのことだ。
要するに、「幸せなツラしてると、幸せじゃない人に刺されますよ」ということであり、もちろん今風に「リア充爆発しろ」と読み替えてもいい。ティム・バートンの初期作品には、常にそんなテーマが通底して描かれている。
みんなが楽しんでいる姿をみせつけられると、世間から外れてしまった人は疎外感を感じ、悔しい、羨ましい、妬ましいと、負の感情が重っていって、ふたつの社会トライブのあいだにはより深い軋轢を生じさせるという警鐘だ。
幸せなこと、嬉しいこと、素敵なことを、みんなと一緒に楽しめない人というのは、どこの世界にも必ずいる。それは醜く生まれたペンギンであり、仮面をしなければ自分でいられないキャットウーマンであり、正体をかくして孤独に悪と戦い続けることを選んだバットマンなのだ。
そして、学校をサボってテレビで再放送している変な映画ばっかり観ていたティム・バートン少年も、そんなネクラのうちの一人だったからこそ、物語のなかで彼等に自分の心をキャラクターに投影し、その思いを代弁させてしまっているように思う。
とても変な映画だ。この映画のバットマンは、倒すべき最大の悪であるはずの敵たちに共感を抱いてしまう。そして、あろうことか物語は本来ヴィランのはずのペンギンを、主人公としてスポットライトの照り付ける舞台のど真ん中に置いてしまうのである。そもそも、貴族の第一子であるにも関わらず親に捨てられたペンギンの人物設定だけ聞けば、昔話の騎士のような出自である。さらに、彼は動物やマイノリティに好かれるディズニープリンセスでもあるのだ。恵まれぬ出自からの脱却、傍らには寄り添うものたち、完全なる主人公である。
途中からバットマンは、自分と同じ怪人なのに急に町の人気者になったペンギンに嫉妬しているようにしかみえない。どころか、何がなんでもペンギンの計画の阻止しようとするバットマンの行動は、どんどんヴィラン化していく。ゴッサム市民の面前でペンギンの足を掬うことに成功し、アルフレッドと顔を見合わせてほくそ笑む場面は、マジで殺してやろうかと思った。
『シザーハンズ』のように、クリエイターの孤独と苦悩とを作品に衒いなく自己投影されると引いてしまうので、既存のコミックのキャラクター性と、実写化にあたっての新解釈とが、いい具合のバランスに落ち着いている本作が一番好きなティム・バートン映画かもしれない。