デニロ

めぐりあいのデニロのネタバレレビュー・内容・結末

めぐりあい(1968年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

1968年製作公開。脚本山田信夫 、恩地日出夫。監督恩地日出夫。

中三時、クラスの10%は高校に進学しなかった。高校からの大学進学も30%程度だった。それがこの先どういうことになるのか、みんな本作の黒沢俊男の弟くらいにはわかっていた。そんな時代の物語。

黒沢年男の父桑山正一は定年退職間近だが再雇用を期待している。釣竿を手にするだけで家の中での存在感はない。元気なのは長男の彼だけ。大学進学を望む弟と中学生の妹。一本線が切れているのかいつも走り回る。満員のバスで女子のおっぱいを掴んだり、通勤途中の女子のお尻をタッチしたり、21世紀の世界ではとても生きていけないような人物。川崎の自動車工場で組み立て工として働く。昼食は鳥の餌場のようだ。なんとランチプレートがベルトコンベアで提供される。

そんな彼は同じ会社の事務職の進千賀子にご執心。でも彼女には大学出のホワイトカラーの彼氏がいる。そんなものなのか。とある朝、いつものように通勤途中の女子のお尻をタッチしたらその女子が転んでしまう。その娘が本作のヒロイン酒井和歌子。

今どきの女優さんと違ってふくよかだ。実に健康的な躍動感。芳紀18歳。父を亡くし、保険外交員の母親森光子と弟の三人暮らし。死んだ夫の弟有島一郎が森光子にプロポーズをする。そんなこと多感な年頃の酒井和歌子は受け入れがたい。母の気持ちを理解していながらも素直に受け入れられぬ気持ちを整理したいと悶々とする。

黒沢年男と酒井和歌子の絡み合いだけれど、桑山正一は再雇用されずに失職。一家の経済が黒沢俊男に覆いかぶさる。そして、酒井和歌子の母は事故にあい死んでしまう。どこまで過酷な設定なのか。

ふたりの気持ちはあっちに行ったりこっちに来たりしているが、経済状況は変わらないままいつものような朝がやってくる。実に苦渋に満ちた作品。

シネマヴェーラ渋谷 日本の映画音楽家Ⅰ 武満徹 にて
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