あきらっち

ラスト、コーションのあきらっちのレビュー・感想・評価

ラスト、コーション(2007年製作の映画)
5.0
“ラスト、コーション”

知らなかった。
このタイトルの意味を。

“戒、色”
“LUST , CAUTION”

“LUST”が意味するもの…


映画を観終えて振り返れば、
とても意味深く、
抗えない人間の性への禅問答のような、
答えの無い永遠のテーマに思えた。

“色”のない人生よりも、
“色”のある人生に憧れる。

そのリスキーな生き様が刹那的であったとしても、
魂触れ合う本当の愛が羨ましくもあり、
だからこそ、観る者の多くに深い感慨を与えるのだろう。



“インファナル・アフェア”に唸り、
トニー・レオン繋がりで目に止まったのがこの映画との出逢いだった。

前知識はゼロ。

予め内容を頭に入れたくなかったので、
レビューやネット批評はスルー。

Filmarksの評価が高かったことを印象に、
パッケージは表紙だけ見てレンタル籠に放り込んだ。

上映時間158分。
だが長さは全く感じない。
あっと言う間だった。

何だこれ…

思わず唸った。
ストーリー構成、役者の演技、劇中音楽、全てにおいて、
想像を遥かに超えた傑作がここに。


1940年代の第二次世界大戦の最中、実質上、日本の占領下にあった香港、上海が舞台。
日本の描かれ方は良くはない。
親日派と抗日派の混沌とした世界。
厳しい時代だ。


鑑賞後、本作についてネットで検索すると、
上映当時、過激な性の描写が大きな話題となった作品であることを知った。

確かに凄い。
過激な描写は時間としては長くはなくとも、
生々しさ、放たれる熱量がハンパじゃない。

だがそこにあるのは、いやらしさではない。
ただの快楽等という薄っぺらいものとは全く異なる。

幾度かある性の描写は、その時点時点における物語の重要な意味をなしていた。

イー(トニー・レオン)を誘惑すべく演じていたはずの心が、
深い場所での絡み合いを重ねる毎に、
自分の心が本物の愛へと変わっていくことにワン(タン・ウェイ)自身は気付き恐怖していただろう。

いつしか、
物言わぬ心の会話がそこにはあった。

悲しく窮屈な時代背景に翻弄され、
理屈なんかでは説明できない
どうしようもない愛のかたち。


“トニー・レオン”の演技はさすがだ。
だがこの映画でダントツに輝いていたのは新人女優の“タン・ウェイ”だった。

しかも全くの新人!?

田舎娘の素朴さ。
可憐な幼さ。
あどけなさ。
可愛らしい笑顔。
切羽つまった困惑した表情。
凛とした大人の妖艶な魅力。
目ヂカラの強さ。
歌声もまた素晴らしい。

色んな表情、どれをとっても新人だなんて思えない。

トニー・レオンすら霞むほど、
周りの力のある出演者をも凌駕し、
ずば抜けた演技力に心底驚いた。


練られた構成も素晴らしく、一度や二度では気付けないような細かい伏線や意味深なシーンが幾重にも仕込まれており、何度でも観たくなる、珠玉の映画だ。


〈追伸〉
しっくり来ない点。
台湾のアカデミー賞と言われる台湾金馬賞でのこと。

最優秀主演男優賞はもちろんトニー・レオン。
だが明らかに主演女優のはずの彼女が受賞したのは、最優秀新人賞。
では一体、最優秀主演女優は誰が…?
答えはイー夫人役のジョアン・チェン。
マダム達のマージャン仲間の主役であったのは認めるが、最優秀主演女優賞というのはどうかと…。
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