ひこくろ

つぐみのひこくろのレビュー・感想・評価

つぐみ(1990年製作の映画)
4.2
吉本ばななが一大ブームになっていた時代に、デビューしたての美少女、牧瀬里穂が主演する。
言ってみれば、流行にとことん乗った作品なのに、そんなことを微塵も感じさせないほど、映画の作りは丁寧だ。
地味に展開していく話を、ゆっくりとじっくりと、掬い上げるように描いていく。
もともとCM畑の人だったと信じられないくらいに、市川準はまるでベテラン監督のような安定感を見せる。

牧瀬里穂が演じる病弱な美少女なのに性格が悪く、口も悪いというつぐみがまたいい。
口を開けばへらず口ばかり、相手が嫌な思いをするのもかまわず、つぐみは我を通す。
けれど、ひねくれ者の彼女は、自分の素直な気持ちを表に出すことができない。
突拍子もない行動や、乱暴な言葉遣いに、彼女の、好きとかさみしいとか苛立ちといった想いが滲み出てしまうのが、たまらなく可愛らしかった。

映画はなんでもない日常や恋や友情を描いているように見えて、そこには常に死の影がつきまとっている。
つぐみの言動の裏側にも、いつも死に対する恐れがある。
それをはっきりと描くのではなく、なんとなく感じさせてくるのが上手いし、かえって心に重くのしかかる。
設定としたら、よくある余命ものなのに、そう描かないところが秀逸だと感じた。

終盤、ある事件をきっかけに、死は一気に表面化して、映画を覆い尽くす。
そこからの各人の台詞、表情、描写なんかは、言葉にしづらいほどによかった。
特にもう一人の主役、まりあ役の中島朋子の終盤の演技は息を呑むほどに素晴らしかった。

パッケージとしては流行りに乗ったアイドル映画のようなのに、中身はとても濃い、死を扱った青春映画。
牧瀬里穂が可愛いだけでは決して済まされない、いい映画だった。
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