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ゴジラ対ヘドラのpirshkiのネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ対ヘドラ(1971年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」公開にあわせて、「ゴジラ」実写映画31作品がAmazon Prime Videoの見放題対象になった。
まさに「東宝チャンピオンまつり」ならぬ「Amazonゴジラまつり」だ。対象作品31作見放題!よくもまぁ、これだけたくさんのゴジラ映画がつくられたものである。

この31作品の中で最も見るべき1作を選べというならこれを選ぶ。
「ゴジラ対ヘドラ」(71年)だ。

怪獣映画に社会問題とサイケデリックカルチャーと残酷描写をぶっこんでゴッタ煮にした「ゴジラ」シリーズ屈指の怪作。
「♪水銀、コバルト、カドミウム〜」とボディペイント風の全身タイツを着た麻里圭子が歌い踊る主題歌「かえせ!太陽を」もバッドインパクト抜群。

いきなりこの歌で始まるオープニングクレジットの後でゴミだらけの海面に画面いっぱいに腐って奇形化した魚が浮かび、廃棄された女性型マネキンが映し出される。
これぞゾクゾクっとするトラウマ映画の真骨頂である。

この延々と続くロングカットは当時深刻だった公害問題を題材にしており、静岡県富士市にある田子の浦湾のヘドロ公害を表現したものだが、東宝撮影所の特撮大プールに本物の魚や各種塗料や洗剤、廃棄油などを混ぜ込んだもので、更に当時の気候を有効利用しわざわざ腐敗を促進させ、凄まじい悪臭の中で撮影したというから、現在では考えられないステキな活動屋たちである。

他にも伝説的なトラウマシーンが次々と映し出され、映画館の良い子の脳みそに刷り込まれる。

その1.サイケな照明のディスコで半裸のような全身タイツでゴーゴーを踊る麻里圭子と女子たち、とってもエロくて魅力的なのだけどデビルマンの黒ミサみたいで、この店自体が怖いです。きっと麻薬とかドラッグとかいろいろ出されて知らないうちに飲まされちゃうんだろうな、と想像する。

その2.その店は地下にあるが、その店の階段に最初にヘドラが泥に姿を変えて侵食してくる、階段を伝わる真っ黒な異臭を放つヘドロ、その中に泥まみれになり、半分溶解しながら鳴き叫ぶ猫の画像のアップ、画像はなぜかモノクロだ。猫に目が合ってしまうのだ(汗)

その3.そのゴーゴーバーの歌手の彼氏(きっとヒモ)らしき、なんだかいつも悩んでいる柴本俊夫(柴俊夫)が「公害反対100万人ゴーゴー計画」を原っぱで計画するも100人ぐらいしか集まらず、ヤケクソ気味に篝火を燃やしゴーゴーを踊っていると、そこにヘドラが現れる、きゃつらは驚くが逃げもせず、ヘドラに松明を投げつけ挑発(ヘドラは火に弱い、とか言ってたが、まさか退治できるとでも思ってたのか?)そして案の定、ほぼ全員、麻里圭子と子役矢野研を残し、ヘドラに惨殺されたりする。
その殺され方もヘドラから投げつけられた強酸性の泥で顔や身体を溶かされるというグロいものだ。。。。こんな死に方はイヤですね、絶対に。。。

その4.途中、いきなり挿入される原色のヘタウマなアニメもシュールで気持ち悪い。子供が描く典型的な悪夢の絵みたいだ。

更にとっておきの、その5、中盤でヘドラの襲撃に家を職場を失い疎開を余儀なくされる住民の声:各インタビューのテレビ画像が増殖してゆく場面があるが、その中に一枚、ヘドロの中に胸まで埋まり泣きじゃくる赤ん坊のカットが鮮烈に観客に突き刺さる。この赤ん坊はCGなどではなく、当然実写の本物で照明担当の原文良の実孫である。
なんとステキな家族愛と映画職人の魂の相剋! 心温まるエピソード!!(笑)

とにかく画面は終始暗い。夜だったり、スモッグの中だったりする。その中に現れるヘドラは設定からして体形がグチャグチャのドロドロでどんな形なのかも、よくわからない。
工場の煙突に口を被せて毒の煙を吸い込むと身体のあちこちがボコッ、ボコッて膨張し、最終的にはあのゴジラより頭二つ分ぐらいデカくなっちまう。重いのか軽いのかも動きからみて不明、陸上なのに海中で動いてるみたいだ。

ヘドラはゴジラや他の正義怪獣と全く異なり、表情やボデイランゲージというものがなく、何を考えてるのかわからない。
肥大化した頭部に、縦に裂けた二つの巨大な目が走っている。無表情のまま、いきなり襲ってきて、あ、コイツ、殺ル気だな・・って気づいたときは目が真っ赤に燃えていて、もはや逃げおおすことなど不可、絶望のズンドコに墜ちるって具合だ。

ヘドラは後のシンゴジラのように成長するにつれ形態が進化し、最終的には不気味な膨らんだ三葉虫みたいな形状になり空を飛ぶ、光化学スモッグや硫酸ミストをまき散らしながら飛び、これを浴びると町は錆び、人間はキレイに白骨化されてしまう。
ゴジラの攻撃も泥相手に行っているみたいに、打撃や咬みつきは全く効かない、逆にヘドラの身体にゴジラが前拳突きを叩き込むと、毒の体液でゴジラの右腕は煙を上げて焼け爛れ白骨化してしまう。実に痛々しい。
この話のゴジラは実に酷い目にあう、攻撃は効かず、パンチは身体にめり込み腕が溶けるし、変な赤い光線まで出されて片目をつぶされてしまう、果てには空に持ち上げられ、富士山の穴の中に落とされ、穴の縁からヘドラが身体から小汚い大量にヘドロを注ぎ込まれヘドロ詰めにされて息の根を止められそうになるのである。悪夢と闘うというのはまさにこの映画でのゴジラである。同情してもしきれないとはこの事である。

うむむ、思い出すだけで鮮烈な映画の名場面の連続だ、
庵野監督、ハリウッドに取られないうちにぜひ日本作品として、
シンゴジラ対シンヘドラ、を撮ってくださいませ。。
お願いのお願い、お願いいたします。

おまけ、1978年に刊行された『世界最悪の50本(en:The Fifty Worst Films of All Time)』の1本として本作が選ばれている。
監督の坂野は素直に喜べないとした上で、「100年の映画の歴史の中から『最悪』の50本に選ばれたのは名誉なことである」と自著に記している