みかんぼうや

ピアニストのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
3.3
【何かに身を捧げ続け、抑圧された人生の先に辿り着いた“歪み”】

カンヌの主要な賞を総なめして公開当時気になりつつも結局これまで観てこなかった作品。例の如くU-NEXTの配信終了に背中を押されて初鑑賞。 ミヒャエル・ハネケ監督作としては「愛、アムール」以来の2作目であちらは結構好きな作品でしたが、本作は同監督の“変態性による胸糞の悪さ”が如実に出た作品と評するレビュアーさんも多かったため、それなりに覚悟して観ました。

はい、確かに“変態性”を感じ取りました。前半はその片鱗を感じつつも、「そこまででは?」と思いましたが、後半に進むにつれ、特に“手紙のくだり”で、なるほど、と納得。ただ、思っていたほどではなかったというか、不快感を持つような変態性ではなく、「こういう癖(へき)の人は、きっと隠れてたくさんいるよな」という、妙な現実性というか納得感を持ってしまったあたり、私も変態なのでしょうか!?私個人としては、こういう愛の形や欲求の解放は全く好きになれませんが、“一人の大人の嗜好性”として、適度に距離をあけて冷静に観ていられたので、覚悟していたほどの極端な嫌悪感は持たなかったのかもしれません。

もう一つ、そこまで嫌悪感を抱かなかった理由として、私の中では、“変態性”が“不快感、嫌悪感”に直結している作品として「ブリキの太鼓」があるからです。あちらは子どもを使った児童ポルノ的な表現や露骨に下品な表現ががかなり強調されていて、その表現にイマイチ意味を見出せなかった故に、単なる気持ちの悪さだけが残ってしまいました。その経験から、私の中では“子どもを使った下品な表現”が一番苦手なタイプの変態性と自分なりに苦手なものを理解し始めていたので、それに比べると本作はそこまでの強烈さがなかったのかもしれません。

この性格面でも癖についても、色々な意味で歪んでしまった熟年女性ピアニストのエリカについて、全くもって好感も共感も持てませんでしたが、強い母親のもと、幼少期からピアニストとしてかなりの期待を背負い、全てをピアノに捧げ、青春時代も恋愛などに目をくれる暇もなく、自己を抑圧し続けてきた結果として、この映画で描かれるエリカの言動に行きついていることは、作品でその説明ががなくとも想像に難くなく(いや、元々の資質かもしれませんが)、自らを何かに捧げすぎた結果、やや破滅的な思考や行動に至ってしまう、という点では、内容や設定は全く違えど、どこか「愛、アムール」と共通点を感じる部分もありました。本作の最後もなかなか衝撃的で、ハネケ監督の作品の作り方や締め方は嫌いじゃないな、と思いました。

正直、物語としては全く好きな内容ではないのですが、映画として観ている分には飽きもなく最後まで面白かったです。レビューの点数が低めなのは、観終わった後に怒りや悲しみ、興奮などの感情を刺激したり何か学びになるようなものがあまりなかったからです。「こんな人もいるんだねぇ」以上のものが無かったというか・・・なので、カンヌのグランプリ受賞にはやや疑問符が残りますが、主演男優、女優賞は納得。

先にも書きましたが、ハネケ監督の作風自体は結構好きなのだな、と気づかせてくれる作品でしたので、これからも時々彼の作品をチェックしていきたいと思います(とはいえ、先日のカサヴェテス作品やPTA作品のように積極的に観ていきたい、という気持ちまでにはいきませんでしたが・・・)。
みかんぼうや

みかんぼうや