Masato

ピアニストのMasatoのレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
3.9

籠の中の鳥

ミヒャエル・ハネケ監督作品

ファニーゲームや隠された記憶が好きすぎたためにとっておきの時に見ようと溜めてたらいつのまにか見ないまま時が過ぎていく羽目に。

未だ母親と一緒に暮らしている中年女性のピアニストが、生徒の青年に見惚れられるが…という物語。ハネケだから月並みのロマンスになるわけがなく、あまりにも醜すぎる性的倒錯を描いた笑いに近いレベルの異常な映画。

ハネケのなかで分かりやすいほうなのではないか…とは思う。異常な毒親に束縛されるように育てられて愛し方を知らない中年女性。真っ当な愛し方を知らずにポルノででしか愛し方を教わらなかったためにマゾヒスティックに。少女のようなイノセントのまま大人になってしまった女性。まさに籠の中の鳥。「ブラック・スワン」と同じ。

彼女は嗜好でそうなったのではなく、その愛し方が正しい愛し方だと思っていた。母親を性的に襲おうとするところがまさにそれ。もう後に戻れないところまでしてしまっていて、そのどうしようもなさが本当に哀しくて辛くなる。どう見ても母親の育て方のせいでしかなくて、後半からの愛し方の正解を求めている姿が辛い。ずっと孤独だったから、誰にも気づかれないまま生きてしまっていたんだろうな。

いっぱしの教養が備わっていそうな裕福な人たちにピアノを教えたり共奏したりする立場であるのに、当の自分は何も教えられずに生きてきたという皮肉に満ちた設定。

日本でも性教育が正しく行われないままで、AVみたいなプレイがセックスの正しい行いだと勘違いする男性がいるそうで。そういうのと全く同じ問題だよね。性行為って公にするもんじゃないから、各人がどれだけ正しい常識や知識を持っているかが把握しづらい。実際に行為に励むときに露呈する。正しい教育を行わないと望まない性的倒錯が生まれていくのではないかと危機感を感じるような物語でもあった。まさに今なんかは恋愛が希薄になってきているから、本作のような問題は顕著になってくるのではないか。童貞の自分が言えることでははいんだけど。てか当事者意識w

特段演出がどうこうっていうのは無かったな。性的シーンがいちいち笑えるのはハネケらしいダークコメディっぽさがあった。寸止めユペール。到底理解できないような人の異常さを冷笑かと思うくらいに淡々と見つめていく。その距離の遠さがコメディっぽくも映ってしまうけど、余計な感情を入れないのがハネケならでは。彼なりの優しい目線。セブンス・コンチネントが脳裏をよぎる。

イザベルユペールはなんでこうも狂った女性ばかり演じるのだろう。冷徹そうでやり手そうだけど悲哀のある顔立ちが良い。前半と後半で同じ無表情でも違った感触を得ることができる。そこが素晴らしかった。後にバーホベンが撮るELLEに似てたな。

青年がレオンSケネディにしか見えなかった。
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