ちろる

ピアニストのちろるのレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
3.5
なんという不穏な想いが漂う痛々しい作品なんだろう。
40歳過ぎても母親の抑圧の下で生きる中年ピアノ教師のエリカ、その娘を自分の所有物と思い込んでいる母親、そしてナットとボルトなんていう直接的な表現で、エリカに猛アタックしてくる若い青年ワルターなど、登場人物がある意味みんなぶっ飛んでいるわりに、ミヒャエル ハネケ監督はあたかもその事が当たり前のように平然と物語を進めてしまう。
というか元々、万人に理解してもらおうとなんか思っていないような監督の開き直った情熱すら見えるような潔さすらあります。

独身というよりはもしかしたら処女をこじらせた感のあるエリカの不器用で変態的な欲望や彼女ほ屈折しまくった行為の数々は到底ついていくことができないし、その彼女の迷走に振り回されてるはずのワルターにもなんだかイラっとさせられたのに、なぜか鑑賞を止めることができなかったのが不思議でした。

なんだろ、多分監督の演出以上にイザベル ユペールのあの無表情の演技の迫力が狂気ともまた違う、気迫みたいなものが漂ってて、月並みな言葉だけどとにかく凄かったとしか言いようがない。


愛ってお互いの「愛の強さ」が同じならなんとかなると思っていたけど、それ以上に「愛の形」が同じじゃなきゃ音を立てるように崩壊してしまう空虚なものなのかも。
ずっと母親に愛されてきたようで、実は全く愛というものを知らなかった孤独で悲しいエリカの心の傷から血が滲んでくるような作品。

ラストのエリカの表情は良くも悪くも印象深いです。
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