吐き気がするほどの純愛映画だった。性欲の寓意をそのまま画面にブチまけたかのような、強烈な自慰行為の産物にも見えた。もはや花火のように弾け飛ぶヌメヌメとした泥色の激情は、ラフレシアのような狂気の華となり、ついには周りの人間をもムシャムシャと食い散らかしていく。もう誰にも止められない。SM沙汰の果てに見る暴発した純愛の結末とは。トイレのシーンの貪り合うようなキスシーンが、ラストシーンと対比させてみると、何ともピュアに思えてくるから不思議だった。
ウィーンの名門大学のピアノ教師エリカは、アラフォーになっても母親の過剰な管理のもと、ただピアニストであることのみを求められてきた。恋愛やオシャレとは無縁の生活が続き、エリカは溜まりきった欲望を個室ビデオでアダルトビデオを見ることで発散したりしていた。だが、ある日の演奏会で出会ったワルターという名の学生に求愛され、エリカの性癖が爆発する。
はじめはワルターを拒否するふりをしていたエリカだが、次第に彼をコントロールしようとし、変態的な要求はエスカレートしていくことに・・。
あのミヒャエル・ハネケがラブストーリーを撮ったらこうなった、という分かりやすい屈折感。この役になり切れるのはイザベル・ユペール以外にはいなかっただろう。
どんなに拒否しても人間は心のどこかで愛に依存する。そして、どんなに否定していても、心のどこかに変態性を隠し持っているものだ。この映画はそれをただ極端なまでに表面化したに過ぎない。とても分かりやすいが、分かりやすくし過ぎたせいで、こんなクレイジーなラブストーリーになってしまった。とても人間臭く、やはりこれは純愛映画だったのだと思えて仕方なかった。
