優しいアロエ

ピアニストの優しいアロエのレビュー・感想・評価

ピアニスト(2001年製作の映画)
3.8
〈有毒なルールに溺れる悲恋の女〉

 ミヒャエル・ハネケは、胸糞映画の仕掛け人というイメージが強いが、それは“なにかを執拗に描く”からなのだと思いつつある。たとえば、『ファニーゲーム』では露悪的なサディズムを執拗に描き、『愛、アムール』では生々しい老老介護を執拗に描いた。

 本作『ピアニスト』が執拗に描くのは、ある女の倒錯した愛情表現だ。主人公エリカ(イザベル・ユペール)は名門大学のピアノ講師であるが、有毒な母性に支配されつづけた結果、異性との関わり方を知らずに40歳を迎えてしまった。そのため、彼女の性欲は歪んだ形で発露する。ポルノショップの試写室に忍び込んだり、他人のカーセックスを覗き込んだりするのだ。

 そんなエリカの前にハンサムな生徒ワルターが現れ、徐々に関係が発展していく。しかし、母親の厳格なルールに縛られてきたからか、エリカもまた自らつくりだした歪んだルールでワルターを抑圧しようとする。しかし、彼女はルールに従わせること自体を目的にルールをつくりだしたにすぎない。そんな空虚なルールでは、ワルターが拒もうと従おうと、エリカが満たされることはないのである。

 淡々とした物語でありながら、こちらの神経を恣意的に逆撫でする露悪描写がやはり横溢。冷酷な長回しを以て、嫌〜な時間をこれでもかと引き伸ばす。エリカの強烈な独占欲や性癖を、歪んだ育ちの反動としてありうるものと見られるかが、評価の分かれ目になるだろう。
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