みかんぼうや

シンドラーのリストのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
4.5
見なければ見なければ、と思いながら20年。ついに見た。

この全編を通じて胸が締め付けられ、見続けることに苦しさを感じるこの悲劇が、ホロコーストという歴史上の紛れもない事実に基づいているという現実世界の恐ろしさ。「事実は映画より奇なり」という言葉があるが、これほどの人種差別と残虐性、そしていつ殺されるか分からないという恐怖に満ちた生活が空想ではなく実際に起きていたという衝撃。映画的な派手な演出ではなく、ドキュメンタリーのように描くことで、その恐怖と衝撃がよりリアリティを帯びて伝わってくる(敢えてモノクロで作ったのも、その時の臨場感とリアリティを出すためだ、と聞いたことがあります)。映画はエンターテインメントであると同時に、私たち人間が犯した過去の大きな過ちや歴史を知り、その教訓を今後に生かすための(少なくともそのきっかけをもつための)学びの機会でありその教訓を伝え続ける最も影響力のあるメディアの一つであることを改めて実感した。

第二次世界大戦やナチス、ホロコーストを扱う作品は数多く存在し、数作品を鑑賞しているが、この映画はその中でも、最もリアリティ、生々しさを感じる内容と描写で、ナチス占領下において1100人のユダヤ人を救った事実を、ただ分かりやすくユダヤ人を救いたいという「美談」として描くわけではないところが、そのドキュメンタリー的リアリティをさらに深めているように思う。だからこそ、過剰演出で増幅された悲しみではなく、心の中から溢れ出す本当の悲しさや辛さを感じずにはいられず、戦争終焉からエンディングに向けては涙が止まらなかった。

以前、「スピルバーグが本当に作りたかった映画がこの作品で、その作品作りにあたって映画監督としての名声や製作費を得るために、E.T.やインディージョーンズなどの名作を手掛けた」という話をどこかで聞いたことがあります。ネットで調べてもそのような記事がなかなか見つからないので、単なる噂か都市伝説かもしれませんが、この話を真実として圧倒的な説得力を持たせるくらい、それまでのスピルバーグ作品と本作品の印象は大きく異なります(スピルバーグの映画は、基本的に映画的な華やかさや派手さがてんこ盛り、という印象が強いため)。個人的には、エンターテインメントとしての面白さよりも、この映画が歴史的名作として今後も名を残し続けるほどの素晴らしいクオリティであったことにより、これから何十年経っても多くの人に語り継がれ見続けられることで、戦争と人種差別の悲劇に気づき、意識し、反対し、世界平和を望む人が増え続けることに、この映画の比類なき価値を感じてなりません。
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