◉シンドラーの心変わりが描けていない
アメリカではかなり評価が高く、映画のベスト企画ではいつも上位にランクインされている。2007年のアメリカ映画協会のアメリカ映画のベスト100では第8位。
駄作というわけではないし、標準以上の出来であることは間違いない。しかし100年以上の長い映画の歴史の中でここまで高い順位にあるのは自分としては違和感がある。
この映画のもっとも大きな弱点は、女たらしで強欲なシンドラーがユダヤ人の救済にのめり込んでいく、心境の変化が描かれていないと思うのだ。
有名な赤いコートの少女は印象的なエピソードだが、その前からあのような光景は当時のナチス党員の人々は日常茶飯事に見ている光景ではないのか。少なくともユダヤ人の賃金が異常に安いことを知っていて雇用して大儲けしたのだから、ユダヤ人が普段どのような扱いを受けていたかシンドラーは知っていたはずである。
最後まで、シンドラー本人は金のためにやったことだが、結果としてユダヤ人を救ってしまったという展開ならまだわかる。
しかし、この映画ではシンドラーは後半では明らかに人道的な立場からユダヤ人を救っており、ここまでの極端な心境の変化の説明がつかないと思う。
自分は後半に行くに従って感動よりも「どうしてこうなっているの?」という疑問の方が大きくなってしまった。
実在のシンドラーの人物像は良くわからないが、映画としては主人公の心境の変化が描かれていないのが弱い。
それでも映画としては秀作であり、ユダヤ人に対して行われた非人道的な行為をきちんと描いており、ゲットーの解体や、収容所での生活や虐殺の場面の凄まじさは目をそむけたくなるようなシーンもあるが、現代に生きる我々も直視しなければならない。過度にグロテスクな描写にならないよう白黒にしたのも正解だろう。
収容所長のアーモン・ゲートを演じるレイフ・ファインズ好演。
ブルーレイ吹替で鑑賞