シャチ状球体

ラストムービーのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

ラストムービー(1971年製作の映画)
3.4
この映画、一般的な映画のように説明の役割としての導入部分が”導入の形をしていない"。
劇中と劇中劇の境目が曖昧だし、デニス・ホッパー演じるカンザスは主人公のはずなのにあまり画面に映らない。映ったかと思えば抽象的な警告を発する。

これは恐らく単純化して見れば、当時増え始めていた映画の中の暴力や性描写に対する懐疑的な視点を提供しているのだと思う。
監督のデニス・ホッパーは、暴力を気軽かつ面白おかしく表現できる映画というメディアに危機感を覚えていたのではないだろうか。それに賛同するか否かは別にして、劇中で若い女性表象の人達が奔放に振舞っている場面が何度かあるのは、フリーセックスに反対するパターナリズム的価値観を逆説的に伝えたかったのかもしれない。
他の現実と空想の区別がつかなくなる系映画とは違って主人公の内面に焦点が当たらないため、問題が中(保守的な規範)ではなく外(革新的価値観)にあるという解釈も成り立つ。

あらすじに記載されている部分以外の全てが難解……というよりシーン毎の繋がりが曖昧で、やはり地球上で作られる最後の映画は暴力と性が支配する現実と区別がつかないものだ(=このままではそれまでの歴史や伝統が無かったことにされてしまう)、という理屈で表現規制の必要性を問うていると読むのが自然な気もする。

とはいえ、当時としては"映画と現実の境目が曖昧になる映画"、という構成は斬新だったことに間違いはない。珍しい映画を体験したい人にはおすすめ……。

恐らく妄想のシーンでレズビアンのキャラクターが性の対象としてのみ登場することから考えても、作り手は同性愛を逸脱だと考えているのだと思う。
とにかく、当時のアップデートされていないジェンダー感が辛い映画だった……。
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