舞台はニューヨークにあるというドルフィンホテル。
娘を亡くし、妻とも離婚危機にあるホラー作家が取材のために、その部屋で過去に何人も悲劇にあったとされる「1408号室」に宿泊するお話。
ドルフィンホテル、と聞いてまず思い浮かぶのが他多くの人と同じかもしれないけど、村上春樹氏の「鼠三部作」シリーズ。とくに『ダンス・ダンス・ダンス』では、ドルフィンホテルは中心舞台のひとつだった。
原作がS.キングであることを考慮すると、もしかしたら関連しているのかもしれないし、全く関係ないのかもしれない。今、ネット検索で引っかかってくるドルフィンホテルはロンドンにあるから、実際に存在はしないのかもしれない。
でも、真実がどうであろうと、そういうことについて思いを馳せるのは楽しい。そういう魅力も今作には含まれているように思えた。
ホラー映画としては、怖がりの僕でもそこまで心を揺さぶられることはなかった。ほとんどの場面は明るいし、出てくる霊的な何かも鮮明すぎて逆に怖くない。びっくりするポイントはあるにはあるけど、心からの恐怖を煽られるようなことは特になかった。
やっぱり密室ホラーの限界というか、そういうものの難しさも同時に感じる。
あえて怖かった箇所を挙げるとすれば、やっぱり真向かいの建物の一室にいる男の存在だろうか。あの描き方は背筋に震えるものがあった。
良い映画は脇役が良い、とどこかの本で読んだような気がするけど、今作はホテルの支配人役のサミュエル・L・ジャクソンが僕好みの雰囲気を醸し出してくれていて、そういう意味では(僕としては)良い映画と言ってもいい。
----ここから重要なネタバレあり。
今作は、ラストシーンについて触れないわけにはいかない。
主人公が最後どうなったのか、いろいろと解釈の余地を残してくれる終わり方だったからだ。
意見が分かれるとしたら下記の2点だろうか。
・主人公は本当に無事にチェックアウトできたのか。
・ドルフィンホテルが火災に遭ったのは現実か。
僕としては、どちらも否という感想で着地させている。
主人公の安否に関しては、最後の妻の表情と、主人公が録音した部屋での音声に、ケイティ(死んだ娘の名)に「ずっと一緒でいられるさ」と話しかけていることが物語っている。
ホテルの火災については、正直あまり根拠がないのだけど、そもそも今作はどこからが(作中の)現実で、どこからが妄想? かが明示されていない。
主人公が1408号室に入って最初の頃に、「最後に寝たのはいつだったか、思い出せない」的な発言をしていることから、主人公は物語の冒頭で、この世のものではなくなっていたのではないかとすら思える。
ドルフィンホテルの存在そのものも怪しい。
ホテルの14階で見る主人公以外の人物(掃除婦や修理屋など)らの映し方も、どこかふわふわとしていて(個人的には)とても不明瞭な印象を受けた。
根拠がなくて申し訳ないけど、そういった「存在の頼りなさ」と「ホテルの火災」という即物的な事象は、頭の中でどうしても結びつけることはできない。
今作は「面白かったあ」と諸手をあげて喜ぶようなものではなかった。
あくまでも僕としては。
ただ原作を読みたくなった。
それを読んでから結論を出すのでも、遅すぎるということはないだろう。