きりん

羊たちの沈黙のきりんのレビュー・感想・評価

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
5.0
とても面白かった…
色褪せない名作と呼べるサイコスリラー。
見せ方もキャラクターも物語も目を引きつける。
不穏な空気が画面を超え、肌で感じる緊張感。
好奇心を湧き立たせる伏線と意味深長さ。
まるで丁寧に描写された小説を読み解きながら、ぺらり、ぺらりと自分でゆっくりページを捲って読んでいるような感覚で夢中になって観ていた。

奇妙で珍妙で汚く薄暗い場所へ、うら若い女性が 知性と勇気を持って出向くという導入にまず引き込まれる。

尋常じゃない観察眼と想像力記憶力を持つ元精神科医レクター。
情報を話すに相応しいか相手を試しながら、言葉遊びよろしく なぞなぞのように比喩めいた会話で弄ぶ。

対するクラリスは、初見ではおやかわいいお嬢さんだとばかりに非力に見られても、率直に 毅然と 決して相手に失礼にならない言葉の表現で、自分の考えを口にして行動できる果敢さと賢さ、素直さをもつ。
ジョディフォスターが好きになる作品でした。

この癖のありすぎるレクターと、FBIクラリスの因縁がここから始まったのだと思うとたまらない初作。二人の特殊な関係が面白く、幕引きも上手い。

驚かせるのではなく心理的にゾクゾクする恐怖を描いてるのも良いし、様々なシーンで色んな比喩や意味が感じられたり、会話の中に心理学的な面もあって興味深い。

脇役含めテレビ版の吹替が大変好き。
クラリス:戸田恵子
レクター:石田太郎
クロフォード:家弓家正
バッファロー・ビル:曽我部和恭

⚠︎下記はネタバレおよび考察なので1度視聴した人向けの感想

*-*-*-*

冒頭クラリスが走り込みをしている森で、向かってくるクラリスと反対方面に看板がある。「痛み 苦悩 苦痛を 愛せ」
初見は意味がわからず、行きは見えなくて帰りに見えるのは、最後まで観た人が思い返したときや、ラストを知り2周目を改めてみたひとに繋げる伏線だと感じた。

作中ではクラリスのトラウマについて深く語られてゆく。ビルもまた、悩んでいた一人だった。
幼少期のトラウマとは厄介なもので、大人になっても記憶や悪夢が誇張したりもする。

看板の言葉が、作中で語られるクラリスの過去の苦悩、苦痛に対しても言えるのだとすれば、
凄惨な幼少期を過ごそうとも、
トラウマが今も君の足を引きずる日があろうとも、いつかそんな過去の痛みも愛し、今を生きれるのだと。
だから恐れず強く、それからどんなに奇妙に思える者に対しても誠実に。
上辺ではなく本質を見抜きながら 踏み出していけ
という観るものへ向けた物語の解釈で受け取ったら、鑑賞後の余韻も恐怖を飛び越えて、考えさせられた ワクワクした 救われた気持ちの方が勝っていた。

最後まで観て今改めて表紙やタイトルを見ると感じ方がまるで違うのも素晴らしい回収。
クラリスの過去についてラストまで触れておきながら敢えて明確な言葉にせずに、
しかし視聴者はパッケージタイトルを見れば、クラリスの長かった悪夢は終わったのだろうと気づける、信じられる作りであるのが最高に好き。
きりん

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