Kuuta

夜と霧のKuutaのレビュー・感想・評価

夜と霧(1955年製作の映画)
4.0
V.E.フランクルの名著「夜と霧」が収容所生活での内心の変化を描いたのに対し、今作はアウシュビッツのハード面というか、そこにあった「物」を外から捉えている。相互補完する関係になっているので、ぜひ両方いろんな人に見てほしい。

今作は、過去の凄惨な映像と現在のアウシュビッツをモンタージュしている。過去の強いイメージよって、廃墟と化していた今をもう一度立ち上がらせる試み。

本の方では、フランクルは最も辛い労働の時、離別した妻が突然脳内に浮かび、彼女と対話する事で生きる力を得たと語っている。扱う題材は対照的だが、「過去のイメージに連動した現在」という思考回路は似てるのかなと思う。

また、原作のフランクルの文章は本当に素晴らしくて、精神科医らしい客観的な描写を積み重ねることで、主観の変化を丁寧に描き出しているのだけど、淡々としたアウシュビッツの施設の映像によって、その恐ろしさを物語る今作の手法にも、近いものを感じた。

人は生きる目的がないと「物」になってしまう。空間的、時間的感覚を失わせ、人を無感動な「物」に変えるために最適化された環境が収容所。比喩ではなく、本当に「人が物にさせられること」を体験できるドキュメンタリーです。
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