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夜と霧の一人旅のレビュー・感想・評価

夜と霧(1955年製作の映画)
5.0
アラン・レネ監督作。

フランスの名匠:アラン・レネが終戦から10年後の1955年に撮った短編ドキュメンタリーで、アウシュビッツ強制収容所の真実をありのままに世に伝えた映画遺産であります。

二次大戦時、多数のユダヤ人が移送され虐殺されたアウシュビッツ強制収容所の真実を、戦時中の記録映像(モノクロ)と戦後10年が経過し廃墟と化した1955年現在の映像(カラー)を交互に映し出していく構成により暴き出した、ホロコーストを題材としたドキュメンタリー作品で、上映時間約30分の短編映画ながら、スチール写真や記録映像など当時の状況が克明に分かる資料をふんだんに用いて、“あの時あの場所で何が起きていたのか”―を明らかにしています。それと同時に、雑草が生い茂った現在の収容所の様子を映すことで、年月の経過による“歴史の風化”に対して警鐘を鳴らしています。

思わず目を背けたくなるような当時の生々しい記録映像と写真の数々に、ユダヤ人に対するナチス・ドイツの蛮行を改めて思い知らされる作品で、宿舎内部の様子や焼却炉、ベッド、トイレ、シャワー室、独房、病院、人体実験室、処刑場、鉄条網、監視台など収容所の詳細がナレーション付きで克明に映し出されています。

死んだ女性の髪の毛が山のように集められた光景や、いくつもの死体がブルドーザーによって雑に片づけられていく凄惨な光景は、余りにも現実離れしたものですが、これらが紛れもなく真実であることに胸が締めつけられます。歴史の真実をありのままに伝えている点で、いかなる劇映画も生み出せない価値を提示しているドキュメンタリー史上屈指の映画遺産で、アウシュビッツ収容所を近く訪問予定の方は事前に本作を観ておくことをお勧めします。
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