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光る女のshxtpieのレビュー・感想・評価

光る女(1987年製作の映画)
3.0
迷作。珍作。怪作。

膨大な予算がかかったこと、それにもかかわらず興行的に失敗してしまったことで、いわくつきの作品。ディレクターズ・カンパニーを傾かせた映画としても知られている、かもしれない(とはいっても、ディレカンはこのあと 5 年続いているので、『光る女』のせいで経営が悪化したというのは、ちょっとおおげさだろう)。そういった理由があるからなのか(?)、『光る女』は『東京上空いらっしゃいませ』とともに一度 DVD がリリースされているが、現在は廃盤のままであるレアな映画(ただし、『東京上空いらっしゃいませ』とちがって、『光る女』は配信もされていない)。

『光る女』は相米慎二の 8 作目の長編映画で、 1985 年の『雪の断章 −情熱−』と 1990 年の『東京上空いらっしゃいませ』にはさまれている。かなりぶっとんだシナリオで、どうしてこれで映画を撮ろうと思ったのか、どうしてこんな脚本になったのか、まったくもって理解に苦しむところがある。ここまで珍妙でわけのわからない映画を撮れるのも、相米慎二くらいのものだろう。

とはいえ、北海道の滝上からでてきた野人の衣装、デスマッチが繰り広げられる謎めいたクラブ「ジョコンダ」の突飛なセット(ここには、相米映画にときどきでてくる寺山修司的な幻想性がある)、燃えさかるバスなどなど、ごちゃごちゃとした美術やよくわからない装置、奇妙なロケは、映画的、と言うほかない。

このあたりから相米のフィルモグラフィは後期に入っていくと言っていいが、だからこそなのか、ここには相米の相米らしさが詰まっている(わるく言えば、手癖で撮っているふしがある)。相米が撮ると、なんでも相米の映画になってしまうのだ。『セーラー服と機関銃』のごてごてとした装飾、『ションベン・ライダー』のめちゃくちゃなエナジー、『魚影の群れ』の荒々しい海を背景にしたロケーション、『雪の断章』などで使われた電話の演出、『ラブホテル』のロマンポルノ性などなど。『光る女』に用いられている「わざ」の数々を見ると、相米の総決算的な趣を感じる。もしかして、武藤敬司は薬師丸ひろ子なのではないか(笑)。

とくに、『光る女』はロマンポルノ的な性格が強く、ロマンポルノとして見ると、不可解さにもちょっと納得がいく。濡れ場を含むプールのシークェンスは強烈で、そのあとの九段会館でのコンサートのシークェンスと同様に、忘れがたい。

冒頭からしてすごい。ちゃんとカットを割るんだな、と思って見ていると、ゴミの山の上で歌う秋吉満ちる( Monday 満ちる)と、その横に据えられたピアノとビーチチェアが飛び込んでくる。そこで交わされるのは、適当に状況説明をするせりふ。もう、めちゃくちゃである。しかもここはかなりの引きで撮った長回しで、相米らしさが横溢している。

YouTube にアップされている 2 つの長回し(トンネルで女を追い回す武藤のシーン、武藤と安田成美がやりとりするシーン)はたしかに圧巻で、とくにトンネルのシーンは武藤が背負い投げをきめたり、屋台の内側を通り抜けたりと、運動そのものがおもしろい。長回しでとらえた前半のプロレスのシーンといい、最後に武藤がすまけいに復讐を遂げるシーンといい、『光る女』では武藤の身体、あるいはその運動を、カメラが力強くとらえている。

ただ、武藤や秋吉の演技があまりにもへたすぎて、なんともいえない気分になる(たいして、安田成美はがんばっている)。だからこそ、せりふを言わずにたたずんでいるシーンは、妙に迫力があるのだけれど……。

全体的に、映像が紫色がかっているのはかなり奇妙だった。
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