どうして自分はこの世に生を受けたのか、なんのためにここで生きているのか、なぜこんなにつらい思いをしながら日々を過ごさなければならないのか、どうして自分はこんなにも世界に対して無力なのか、人間はじぶんにまつわる根源的な謎をまったく解明できないままに毎日を乗り越えていくしかなくて、解明し得ない謎をずっと意識することは精神衛生によくないからふだんは魂の奥のほうのタンスにしまってある、けれど謎由来の苦しみと不安の強い臭気はタンスの隙間から絶えず漏れ出てきてしまう
だからカスパー・ハウザーのあまりにセンセーショナルで奥にしまっておきようのない出自の謎とその後の人生の困難を目の当たりにすることで、我々は「そうだよな、そう、自分という存在も人生もこれくらいわけわかんなくって謎だらけで苦しくて、それは至極当然のことなんだ」と救われたような感覚を得るのかもしれない、その癒しの予感みたいなものが時代を超えて人々をカスパー・ハウザーに引き寄せるのかもしれない