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カスパー・ハウザーの謎のbのレビュー・感想・評価

カスパー・ハウザーの謎(1974年製作の映画)
4.1
原題『JEDER FUR SICH UND GOTT GEGEN ALLE』 
(訳:人は皆ひとりぼっちで、神はそれを救わない)

邦題ですが『カスパー・ハウザーの謎』とありますが、この映画はカスパー・ハウザーという実在の人物を描いた映画ですが、彼の謎に包まれた人生を解明する様な内容ではありません。よってこの邦題は不的確であり誤解を与えかねません。
ざっくり言うとこの映画はルーム×エレファントマンの様な話です。

カスパー・ハウザーとはドイツのニュンヘンベルクで発見された身元不明な人物で、彼はおよそ16歳まで地下の牢獄に閉じ込められていたとされ、その際水とパンだけで生き永えさせられており、まともな教育はおろか外部との接触は完全に絶たれていたため、彼は発見された際言葉を発する事が出来なかったとされている。
☝というような奇妙な実話を元にしている。まずこれが実話というのが興味深い。不謹慎ながらオカルトマニアの人ならゾクゾクする話でしょうし、心理実験としても興味をそそられる。


言語がなければ思考が不可能、故に彼は牢から出た瞬間、まるで生まれたての赤ん坊の様に無垢で無知だった。また、外部との接触が0だったためか明らかに彼の挙動は異常であった。
そんな異端者であるカスパー・ハウザーは「普通」の人間の凝り固まった価値観が通用しない存在なのだが、周囲の人間は常識や信仰などを彼に強制しようとする。

「牢の方がましでした」牢を出た後言葉を学んだカスパー・ハウザーが言った言葉だ。彼の発するその言葉からは、向けられた好奇の目や差別や抑圧、彼にとって外界の全てが不気味でいて恐ろしく感じた事が伺える。

『人は皆ひとりぼっちで、神はそれを救わない』
僕は信仰とは共同幻想であり価値観の共有だと思っている。人は皆異端者だ、必ずしも価値観を共有することで救われる訳ではないのだろう。

この題材ならもっとウェットに出来るはずなのにクールな描き方に終始していたのが印象的だった。
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