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憲兵と幽霊のblacknessfallのレビュー・感想・評価

憲兵と幽霊(1958年製作の映画)
3.3
日本映画チャンネルの「上坂すみれの新東宝theater」天知茂の新東宝作品を放映していく企画の第一弾。

上坂すみれ、神保町シアターで新東宝特集観るぐらいの新東宝好きで、特に天知茂がお気に入りとのこと。全然知らなかった笑

新東宝と言えばエログロに昔の怪談チックな陰々滅々とした因果話を連発してたイメージ。
これはそのイメージ通りの作品だった。

天知茂演じる悪の憲兵波島中尉が、狙いっていた明子という女性が部下の田沢と結婚してしまい嫉妬の炎を燃やす。
田沢に機密書類紛失の濡れ衣を着せ銃殺に、田沢の母に讒言をして自殺に追い込み一人取り残された明子をモノにする。
胸糞な悪役なんだけど天知茂のクールでノーブルな風貌からかのっけから2人も殺してるのにあまり血生臭くないんだよな。
実際、自分で手を下さず部下使って田沢を拷問したり、味方のふりを明子をモノにする時も裏から手を回し会社をクビにして自分に頼らせたり、主に奸計で裏で糸を引いてるからだと思う。
そのずる賢く冷酷なとこが天知茂にマッチしていて驚いた。
しかも、手に入れた女に興味がなくなると体を弄んだらさっさと手切れ金を渡し涼しい顔で明子を捨てる。完璧なクズっぷり笑
やってることは"怪猫トルコ風呂"の室田日出男さんと変わりないんだけど、天知茂のクールな美顔で何か悪魔的な魅力がある。
やはり顔って大きいよな笑

さらに波島中尉というか天知茂は徹底した虚無主義でエリート憲兵でありながら中国のスパイをしてる。
実は機密書類も天知茂が中国に流していた。ちなみに中国の女スパイ(既婚)もその魅力で口説き落として関係を持つ。

この人も国も信じずひたすら我欲のためだけに生きるニヒルな姿勢は純粋悪として哲学的な魅力があったりもする。

でも、これは怪談因果話なんでこの後、天知茂は殺した者達の霊に取り憑かれ無様に右往左往して惨めな最期を迎える。
この時の天知茂もまた良くて、霊達によって悪事が露見し追い詰められ、それまでの冷酷な美貌と佇まいがどんどん恐怖と絶望で怯えきった小動物ようになる。
このギャップがかなり笑えた。

エログロという割にエロもグロも超控えめで、幽霊👻の描写も昔ながらの紋切り型のヒュードロドロ系であまり恐くないんだけど、天知茂の魅力で気にならなかった。

意外だった。天知茂と言えば美女に変装して顔のラバーをペリペリ剥ぐとずんぐりしたおっさんの女装になるのが楽しい、テレビの江戸川乱歩シリーズの明智小五郎しか知らなかったから、こんなニヒルで極悪な役をやっていたなんて驚き。

上坂すみれは天知茂の魅力を"負けのヒロイン"と評していた。
悪の限りを尽くすも最後は自分の悪業のからめとられる物悲しい悪役がこんなに似合う人はいない、と。完全同意する笑
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