スローモーション男

ニンゲン合格のスローモーション男のレビュー・感想・評価

ニンゲン合格(1999年製作の映画)
4.8
 黒沢清、三連発!

 交通事故で10年間昏睡状態だった吉井豊は病院で目を覚ます。藤森という叔父の家に泊まり、そこで死人のような生活をしている。
 別れた家族との再生の物語が始まる。

 『CUREキュア』や『カリスマ』の間にこんなヒューマンドラマを作っていたとは!
 そして、日常に潜む恐さがある。

 死人のように生気がなかった豊はポニー牧場を開設しようとし、少しずつ生きがいを見つけていく。ボランティア活動に忙しい父親、ヒステリックな妹、心優しい母親ともう一度やり直す。

 豊役の西島秀俊が素晴らしい演技なんです。『ドライブ・マイ・カー』の演技を彷彿とさせる。役所広司、菅田俊、りりぃ、哀川翔、麻生久美子もとても良い。

長回しも凄いし、いままでの黒沢清の作品でいちばん笑えます!
「万物は流転する」
なにもなかった場所からなにかを見つけ出す。その人生には目的も個性もない。自分をなくしたからこそ、ただがむしゃらに人間として生きる。そんなことを言われた気がします。

ラストシーンはとても切ないです。でも彼は真剣に生きた。それを感じさせる結末でしたね。
黒沢清の作品の中でもお気に入りの一本になりました!