ぬーたん

キッドのぬーたんのレビュー・感想・評価

キッド(1921年製作の映画)
4.3
1921年の作品。あと3年で100年も前とは!
チャップリン32歳。
監督・脚本・製作・音楽・主演。つまり全て。
とんでもない天才。
そして、優しく面白く温かいチャップリンの人柄も出ている作品。
もちろんサイレントで、観るものは目で感じ取るしかない。
それなのに、目がウルウルし、こんなにも心に切なく訴えるものか。

以下、チャップリン大好きな故・淀川長治氏の解説より引用。
『チャールズ・チャップリン見事な俳優ですね。見事な監督ですね。
この人の『犬の生活』、怖いけど悲しいけど良かったね。見事でしたね。このチャップリンがやがてファースト・ナショナル言う会社で『キッド』を作りましたね。『子供』ですね、『キッド』。それが凄い、これ今ご覧になったらチャップリン言う人がどういう人か分かりますね。つまり映画は目で見る物、映画は口でしゃべらなくても目で見る物。それがこの映画観ていますと完全に本当に目でずーっと分かってきますね。』

女性が赤ちゃんを捨てる、そして放浪者がその子を拾うことから始まる。
アレコレあって仕方なく育てることになるが、その様子が微笑ましい。
布を切ってオムツを作ったり、ハンモックみたいな物に寝かせ固定したポットにミルクを入れている。
それが何だか楽しそう。幸せそう。
5年後、2人はガラスを売る。
キッドが割って放浪者(チャーリー)がそこに現れガラスを売るというやり方だが、警察官に見つかり慌てて逃げる。
この時のくっつこうとするキッドと、お前なんか知らんという具合に蹴飛ばすチャーリーの後ろ姿が可愛らしい。

キッドをジャッキー・クーガン。
チャップリンの秘書、高野虎市が見つけて来たという。
このジャッキー、7歳だけど、凄い演技力!
そんじょそこらの子役など目ではなく、このサイレント、表情だけでこうも観客を引き付ける、天才中の天才子役だ。
そして、可愛い!
女の子のようにキュートで小さくて帽子とガバガバの服が似合ってて、とにかく観ているだけで可愛いのだ。
大人になってからのクーガンは、あの可愛らしさは何処へ?と疑問符を10個は付けたい位の太めのオジサンになってしまったが…。
キッドの母役はエドナ・パーヴァイアンス。
この作品より前にはチャップリンと恋人同士だった。
亡くなるまでチャップリンから給料を貰い続けたという。チャップリンは優しいなあ。
綺麗な女優だ。
そして夢の中で放浪者を誘惑する天使役のリタ・グレイ。
彼女とはこの後結婚する。
チャップリン、共演者にすぐ惚れちゃうのね。
そしてその相手が10代だから、親が出てきて騙し取られたり。
まあ、仕事が出来る人は恋愛も…なのかね。
チャップリンはイケメンだったし。

さて。
チャップリンにとって初の長編映画で、プライベートの問題も絡み、決して順調とは言えなかった今作の制作。
でも、そんなことは何処へやらで、チャップリンは生き生きと放浪紳士を演じ、その仕草や表情は、サイレントならではの、言葉以上に観たものに訴えかけて来るのだ。
いやはや。凄いね。

親子が引き離される有名なあの名シーンは、先日「チャーリー」を観た際にラストのアカデミー賞の授賞式の場面で使われていて観たばかりだが、それでもぐっと来た。
血は繋がっていないし、5年という短い月日ではあるけども、しっかりと親子になっていた2人。
いや、むしろお互いしか居なかった。
貧しく、支えあって生きて来た。
ホットケーキもきっちり半分こだしね。

そのアカデミー賞の授賞式でアメリカに滞在した1972年に、チャップリンはこのキッド役のジャッキー・クーガンと最後の再会を果たしたそうだ。
どんな会話をしたのかな?
きっと、ハグして泣いただろうなあ。
その5年後にチャップリンは亡くなった。
更にその7年後にクーガンも亡くなった。

悲しいストーリーだから、その中の笑いも更に活きる。
とは淀川長治さんの言葉。
正直、初の長編ということで、笑いの方は、面白いけど大笑いするというほどではなかったが、ドラマとしてはとても感動的だった。
あっさりしたラストも良かった。
チャップリンの魅力が詰まった素敵な作品だ。
ぬーたん

ぬーたん