櫻イミト

鬼火ロウドンの櫻イミトのレビュー・感想・評価

鬼火ロウドン(1918年製作の映画)
4.0
ハリウッド草創期の西部人情劇の大スター、ウィリアム・S・ハートの監督主演作。原題は「BLUE BLAZES RAWDEN(地獄のロウドン)」。

アメリカ北部。 “鬼火のロウドン”と呼ばれる荒くれ者の木こり(ウィリアム・S・ハート)が、仕事を終え森のふもとのバーにやってくる。店主は “絶倫の旦那”と呼ばれる悪漢で、二人は見栄を張り合っているうちに拳銃での果し合いに・・・勝ったのはロウドン。旦那は死の間際に一通の手紙をロウドンに託す。それは何年も会っていない母親からの「訪ねに来る」と言う手紙だった。。。

すごく面白かった。1918年にこれ程の完成度で人情映画が作られていたことに驚いた。物語を通してロウドンが心を入れ替えていく様子が、面白くて感動的である。冒頭の巨木が倒れるインパクト、暗闇の決闘で浮き立つ光と硝煙、山に始まり山に終わる物語構造など、映像もシナリオも実に上手く出来ていた。人間ドラマも繊細に描かれていて、“絶倫の旦那”(すごい仇名!)と書かれた墓を母親に見せるわけにはいかないと、慌てて“善人ヒルガード”に建て替えるのも笑いと人情のツボを押さえた名シーンだった。

本作のロウドンのような役柄は「グッド・バッド・マン(心優しき悪人)」と称される大人気キャラだったそうだ。ハートは決して二枚目ではないと思うが、強面の中にユーモラスな人情が感じられ、大衆人気があったのもわかるような気がする。

1910年代のグリフィス監督やシュトロハイム監督の全盛期に、ハイレベルな西部人情劇があったのは初めて知ったし、失われたフィルムも多いと聞くが引き続き注目していきたい。

※ウィリアム・S・ハート
1870年ニューヨーク生。ブロードウェーで舞台俳優を18年続けた後、1914年に44歳で映画デビュー。1925年までの12年間、西部劇スターとして圧倒的な人気を集めた。日本ではS・ハートの愛称で親しまれ40本以上の作品が輸入された。

「西部劇というものがヨーロッパの人々にとってどれほど意味のあるものか、わたしにはわからない。 しかし、アメリカを母国とするわれわれにとって、西部劇はまさに国民生活のエッセンスそのものなのだ」ウイリアム・S・ハート
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