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ファミリー・ツリーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ファミリー・ツリー(2011年製作の映画)
3.9
 ハワイの美しい海を走る船艇の上で、思わず女は笑みを浮かべる。その天国のような多幸感が、次の瞬間悪夢に変わるとは思いもせずに。ハワイ州オアフ島のリゾート地ホノルル、天国のような土地で暮らす弁護士のマット・キング(ジョージ・クルーニー)は友人から羨望の眼差しで見られているが、実際は仕事に追われる日々で、自宅にも滅多に帰らない仕事人間だった。約160年間にも渡り、先祖代々受け継いだカウアイ島の広大な土地は、7年後の信託を前に売却するか維持するかの選択を迫られていた。ゴルフ場が立ち並ぶ肥沃な土地は、先祖代々受け継いで来た家族の財産だが、売却すれば自然は失われるものの、数億ドルもの資金が入る。彼の親戚達は売却益を分けることを望んでおり、仕事人間の彼も売却益で妻とゆっくりした生活をしたいと望んでいた。そんな矢先、妻エリザベス(パトリシア・ヘイスティ)がモーターボートの事故で頭を打ち、意識不明の重体となる。10歳の次女スコッティ(アマラ・ミラー)はショックから情緒不安定になり、様々な問題を引き起こす。次女の反抗に、3歳の頃から妻に育児を任せっきりだったマットは手を焼いていた。そんな中、全寮制の学校へ通う長女アレックス(シャイリーン・ウッドリー)の迎えに行った父親が母の病状を伝えると、動揺した彼女は父親に、母親が浮気をしていたことを告げてしまう。

 ハワイに住みながら、仕事一筋で家庭を顧みなかったマット・キングの姿、父親とコミュニケーションが円滑に取れない2人の娘たち。『アバウト・シュミット』では定年退職をした男が突然、妻を失い生きる意味に迷ったが、今作では仕事盛りの主人公が、妻の昏睡状態により、一切の会話が出来なくなる。一見、他人も羨むような裕福な家庭に見える4人家族には当初から亀裂が見える。2人の娘の荒廃した行動を見れば、家庭環境が上手くいっていないのは明らかだろう。おまけに妻の浮気の事実が露呈したことで、マットは初めて妻との結婚生活を顧みる。妻はいったい誰と、どんな目的で男女の関係になったのか?男は一切自分自身を顧みることをしないまま、Eが重なるスペルのジュリー・スピアーという男の幻影に固執する。アレックスが連れて来た恋人のシド(ニック・クロース)を苦々しく思い、かと思えば浮気相手の留守番電話にメッセージを残すマットの姿は、これまでのアレクサンダー・ペインの映画のように、哀れな負け犬そのものに他ならない。男勝りだった妻が生前残した事前指示書、昏睡状態の妻にぶつけた怒り、妻に言えなかった感謝の言葉。土地の売却と不動産業者の関係性が見えた時点で、このような結末になることはある程度予測出来るが、マットたち家族の絆はその凡庸なプロットを乗り越える。カリフォルニアを縦断した『サイドウェイ』同様に、ハワイの晴れた青空は家族の絆に一石を投じる。言えなかった優しさの言葉は過去でも現在でもなく、未来へ向く。
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