秋日和

メーヌ・オセアンの秋日和のレビュー・感想・評価

メーヌ・オセアン(1985年製作の映画)
4.5
服装が持ち主の職業を本人に無断で告げてしまうのは、よくあることだと思う。例えば列車の乗務員、例えば弁護士、例えば漁師。それぞれが服と共に職業を纏い、自らに与えられた職務を全うする。中には服を脱ぐことで職業が浮かび上がってくる人もいるけれど、この映画に出てくる人々は基本的に、服を着替えることがまるで休暇に足を踏み入れることかのように振舞っているみたいだった。それは勿論、帽子を脱ぐなんていう些細なことだって大丈夫。仕事中に男の頭から離れない「四つの星」をそっと外したとき、彼は即興の歌を唄う権利を獲得するのではないだろうか(でも彼のすぐ傍に「五つ星」を追い求める女がいることを忘れてはいけなかったりする)。ピアノを弾くジーン・アーサーを囲みながら音楽を作り上げていくアメリカ映画を、少しだけ思い出す。
互いのことを全く知らない者同士が気付けば勝手に(精神的な意味ではなく、画面的な意味で)輪を作っていたり、そして既に作られていた輪を乱している様が可笑しい。かと思えば夜の港を一列に並んで歩いてしまうから楽しい。更に付け加えるなら、競い合っていた筈の男二人が同時に酒を飲み、同時にグラスをゴトッと置いてしまうのを見てしまうともうどうにでもなれとさえ思ってしまう。
ロジエの映画はいつだって愉快で痛ましく、何故だか哀しい。あんなにも楽しかった夜が気がつけば終っているのはどうしてなのか。次の朝は他人になってしまっているのだろうか。……休暇から突如放り出された男は少しだけ漁師の服を纏いながら、いつもの「四つ星」をもう一度点滅させに戻っていく。「空」でも「海」でもなく、「陸」に流れ着くのが素晴らしいね。浜辺に足跡を残しつつ、そして人生はつづく。