Jeffrey

メーヌ・オセアンのJeffreyのレビュー・感想・評価

メーヌ・オセアン(1985年製作の映画)
3.5
「メーヌ・オセアン」

冒頭、とある週末、とある小さな島。女弁護士、フランス国鉄の検札係、ブラジル人ダンサー、漁師。軽快な音楽、大空と海原。今、大西洋の島で繰り広げられる海とロードムービー、そして週末の悲喜劇が映される…本作はジャック・ロジエの長編3作目にしてジャン・ヴィゴ賞を受賞した彼のアナーキーな作品として有名な1本だ。確か2010年に行われた特集上映「ジャック・ロジエのヴァカンス」は渋谷のユーロスペースで上映されていたと記憶している。

本作は冒頭から面白い。ボーイッシュな髪型の女性が小走りで急ぎながら地下鉄に乗る。やっとの思いで座席に座ったものの、チケットにパンチがされていないのを検札長が見つけてしまい、彼女に質問する。ところが彼女は全くフランス語が話せなくて、話が通じない。そこにやってきた上司の男が規則違反だと彼女に詰めかける。続いて、彼女のパスポートを確認するべく、提示を求め彼女は見せブラジル人と判明。そして追加料金を払ってくださいと言うが"お金は払った"と彼女は主張する。続いて、フランス人女性(弁護士)が仲介して通訳をする。プレジデント(大統領)と名前の付けられた犬が1匹いる。女弁護士と乗務員が口論し始める。そして2人の乗務員は諦めその場を去っていく。続いて彼女は2等車からそのブラジル人女性の席の隣に座り会話をする…


さて、物語はフランス西部の街ナント行きの列車メーヌ・オセアン号に乗車したブラジル人ダンサーの女性が検札係に罰金を支払えと咎められている。そこへたまたま通りかかった女弁護士が通訳をしつつ彼らを追い返す。そして2人は意気投合し、一緒に旅をすることになる。まずは弁護士の依頼人の裁判を行うために一旦目的地と違う場所で下車し、裁判を行う。あっさりと敗訴してしまい彼女は憤慨しつつ、その地元とユー島へ移動する。そこで何の巡り合わせか…偶然にも先程の検札係の1人に出会い検札長まで誘い全員が島へと集まる。そこから恋とジャムセッションが繰り広げられ、彼女、彼らの旅が映される…と簡単に説明するとこんな感じで、この作品はロジエによる何故だか意気投合してしまう男女の物語を淡々と映し出している。

とりわけ、漁師とメキシコ人の興行師まで仲間に加わり、皆が島に大集結してからは一体誰が主人公なのか分からなくなってしまう。さらに学校の音楽の教員や地元のピアニストまで加わる始末。そして大演奏会が始まるシーンの長いこと長いこと…。そのおかげで海辺のバカンスと言う雰囲気が最後の最後まで現れてくれない。人々の退屈な日常の中に思いがけない出会いや喜びを130分と言う上映時間の中に入れ込んだ彼の秀作である。

とりわけポルトガル語からスペイン語、イタリア語そしてフランス語、英語とありとあらゆる言語が飛び交う作品も珍しく、こういった演出がこの作品には欠かせなく、それが重要な要素になってる。そしてネタバレになるためあまり上手くは言えないが、この作品は結局のところ主人公を選ぶとしたら◯◯になるのだと思う。そうすると案外風変わりな主人公設定だなと感じてしまった。


ラストの船から男性(検札長)が浅瀬に降りて別れる際のロングショットの映像が美しくて綺麗だ。そこからヒッチハイクをして日常の生活に戻る大団円は今までの彼の作品の代名詞の1つである。そうするとやはりバカンスの終わりをロジエは強調しているのかと思う。

それにしてもバストショットが目立つ作品だなぁと思った。それと舞台となった場所も美しく原風景に満ちていて近代的なパリ、モンパルナス駅から走るメーヌ・オセアン号から始まり、ル・マン、アンジェ、ナント、フロマンティーヌ、ボルニック、ユー島など…景観が徐々に風光明媚になるのも素敵だ。

この作品はラストシーンのパッカージュ・デュ・ゴアのフランス本土を結ぶ道のシーンが最も印象に残る。
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