メーヌ・オセアンの作品情報・感想・評価

「メーヌ・オセアン」に投稿された感想・評価

netfilms

netfilmsの感想・評価

4.7
 パリのモンパルナス駅、ブラジル人ダンサーのデジャニラ(ロザ=マリア・ゴメス)は改札口を駆け抜けると、フランス西部の街ナント行きの列車である「メーヌ・オセアン号」に乗り込む。食堂車でコーラを呑み、一息ついた女は指定席のある2号車へ向かう。疲れて眠りについた数分後、検察係のリュシアン・ポントワゾ(ルイス・レゴ)に突然起こされる。「切符を拝見します」デジャニラは切符を見せるが、リュシアンはパンチがないことを彼女に詰め寄る。上司のル・ガレック(ベルナール・メネズ)に指示を仰ぎ、国鉄の検札長である彼は威厳を持ってデジャニラに注意するが、フランス語がわからない彼女には何が何やらさっぱりわからない。彼女はブラジルからこの地に来たダンサーであり、美しい流れ者である。ブルターニュ出身で厳格なルールにうるさいル・ガレックはまるで彼女を犯罪者のように扱うが、その姿を見た1号車の客ミミ(リディア・フェルド)が止めに入る。彼女はフランス人ながら、ポルトガル語も話すバイリンガルであり、立場の弱いデジャニラの通訳として、頭の固い検札長であるル・ガレックと向き合う。法曹服を着て威圧するミミに根を上げたのか、ル・ガレックとリュリュは罰金の支払いだけを命じ、それ以上の追求を折れる。ナントよりも遥かに手前であるアンジェで降りたデジャニラとミミは、迎えに来ていた漁師プチガの弁護に訪れる。

 パリ・モンパルナスからアンジェへ。血の気の多い漁師であるプチガ・マルセル(イヴ・アフォンソ)のシトロエンに乗り込んだ2人は「ランデヴーへ行こう」というミミの言葉を頼りに、まずはプチガの裁判に挑む。敵側が圧倒的に有利な状況の中で、ミミは突然裁判長に言葉の大切さを説くが、彼女の長話に呆気に取られた裁判長は執行猶予付きの禁錮18日という非情な裁定を下す。この場面がコミュニケーションの不可能性を暗喩しているのは云うまでもない。導入部分でまったく噛み合わなかったデジャニラやミミのポルトガル語と、ル・ガレックとリュリュのフランス語、ありのままの真実を伝えようとするが、早口な西訛りの言葉が裁判長の心象を悪くしてしまうプチガの漁師言葉。それらコミュニケーション手段の根本的な断絶は、極めて現代的な問題を呼び起こす。あっさりと敗訴し、怒り心頭のプチガはデジャニラとミミを自らの故郷であるユー島へ案内すると誘う。フランス西部ヴァンデ県沖の大西洋上にある島で、ポール・ジョワンヴィルとポール・ド・ラ・ムールに挟まれた港町は2人のランデヴーにとって格好の土地になるが、2人はレ・サーブル=ドロンヌへ向かうと言い残し、もう一度列車に乗る。そこで2人はリュシアン・ポントワゾ通称リュリュと奇跡のような再会を果たす。

 今作を最も特徴付けているのは、一体誰が主人公なのかまったくわからない物語展開に他ならない。当初はデジャニラとミミのどちらかが主人公に違いないと予想した我々観客の期待はあっさりと裏切られる。『アデュー・フィリピーヌ』や『オルエットの方へ』と同様に、4人の主役なのか脇役なのかはっきりしない人物たちは、それぞれが意図せぬ理由でユー島へ向かう。彼らをその島へ導くのはデジャニラの美貌の魅力に他ならない。半ばリュリュの口車に乗せられたル・ガレックは別として、ポルトガル語を操ること以外、一切の詳細が不明のデジャニラの不思議な魅力に絆され、一行は風光明媚なユー島を訪ねる。デジャニラの虜になったこの島に住むプチガは、言葉の通じない彼女に屈辱を負わせた国鉄の検札係をボコボコにしようと息巻いている。次の瞬間、プチガのBARに彼が半殺しにしようとしているリュリュとル・ガレックが姿を現す。島の仲間たちが見ている手前、引くに引けなくなった男の激情は、リュリュに怪我を負わせる事態になるが、殴り合いの果てに3人の男には友情が芽生える。メキシコ系の詐欺師のようなインチキ興行主であるペドロ・マコーラ(ペドロ・アルメンダリス・Jr)を加え、デジャニラを中心としたピープル・ツリーが市民会館で奏でるセッションの有無を言わせぬ素晴らしさ。ここではコミュニケーションの不可能性は音楽を媒介とし崩壊し、赤ワインに呑まれた憎まれる側と憎む側はセッションを通じて一つになる。

 美しきランデヴー(ヴァカンス)のその後を描いたクライマックスまで辿り着く過程で、我々観客はようやく今作の主人公をスクリーンの中に見つける。列車から飛行機へ、飛行機から船へ。船を乗り継いだ先に待つ主人公のロング・ショットの途方もない素晴らしさはまさに奇跡のような魅力を誇る。「現代のモーリス・シュヴァリエ」と煽てられ、随分あっさりと現実に引き戻される主人公の描写と対比的に描かれた遥か彼方へ消えゆくジェット機の未来。1年365日夢の中のようなデジャニラの日常に対し、一度そんな夢のような未来を夢想した主人公の運命はいとも簡単に打ち砕かれる。所詮は夢のような誘いに騙されたこと自体が、主人公にとっては限りあるヴァカンスなのである。『アデュー・フィリピーヌ』や『オルエットの方へ』と同様に、ここでも主人公の夢のような時間は有限であり、唐突に夢は醒め、永遠の現実に引き戻されてゆく。
まーゆ

まーゆの感想・評価

3.8
冒頭の切符のいざこざから面白いし様々な人々を巻き込み絡めとって行く過程もバカンス浮かれなフランス人ってな感じで良い!極めつけは国や言語や身分や職業を超え歌やダンスに興じる中盤。そして毒のある終盤と忘れ難きラストシークエンス。傑作!
くじら

くじらの感想・評価

5.0
ジャック・ロジエのDVD BOXを友人に借りて既に約一ヶ月が経とうとしていた。『オルエットの方へ』を早々に観て満足してしまったため、本作の観るタイミングを逃してしまっていたのだ。

映画とは観るタイミングやコンディションによって響く響かないが変わってしまうことがよくある。天気・体調・バイトの有無・起床時間・世界情勢、等々。これらが全て完璧な日をずっと見計らい待っていた。

そして遂にその日がやってきた。
天気は快晴。窓を開け、涼しい風を部屋に招き入れる。バイトは休み、珍しく朝8時に起床。観るなら今日しかないと思い、昼過ぎデッキに入れた。

結論から言うと最高だった。
体感10分だった気がする。当然だがそもそもヴァカンス自体、一時の安息、儚いものなので、ヴァカンス映画約2時間が10分に感じても別におかしくも何とも無いのだ。
それぐらいヴァカンスを擬似的に体験できたし、その空気感をジャック・ロジエは見事に作りだしている。

また音楽が言語と人の壁を壊すシーンはこの映画のメインディッシュと言っても恐らく反論は無いだろう。しかし特に自分がお気に入りなのは、その前のシーン。夜、海沿いの道を並んで一向がピアノのあると言う市民会館へ黙々と移動する。あのシーンは普通ならカットするか、もっと短くすると思うのだが、ロジエは違う。とくに重要なシーンでもないのに撮り続けている。
私はこの特に意味の無い、重要でないシーンに《ヴァカンスの全て》を発見したのだ!
なんだかとても嬉しくなった。あそこは本来言語化にしたり映像化できない部分だと思っていたから。その潜在的な私の感覚にロジエは唐突にいとも簡単に侵入してきたのだ!

最後に今苦しい自粛生活を強いられている中で、『オルエットの方へ』然りこのような素晴らしい貴重なヴァカンス映画を観る機会を与えてくれた友人には感謝しかない。
Jeffrey

Jeffreyの感想・評価

3.5
「メーヌ・オセアン」

冒頭、とある週末、とある小さな島。女弁護士、フランス国鉄の検札係、ブラジル人ダンサー、漁師。軽快な音楽、大空と海原。今、大西洋の島で繰り広げられる海とロードムービー、そして週末の悲喜劇が映される…本作はジャック・ロジエの長編3作目にしてジャン・ヴィゴ賞を受賞した彼のアナーキーな作品として有名な1本だ。確か2010年に行われた特集上映「ジャック・ロジエのヴァカンス」は渋谷のユーロスペースで上映されていたと記憶している。

本作は冒頭から面白い。ボーイッシュな髪型の女性が小走りで急ぎながら地下鉄に乗る。やっとの思いで座席に座ったものの、チケットにパンチがされていないのを検札長が見つけてしまい、彼女に質問する。ところが彼女は全くフランス語が話せなくて、話が通じない。そこにやってきた上司の男が規則違反だと彼女に詰めかける。続いて、彼女のパスポートを確認するべく、提示を求め彼女は見せブラジル人と判明。そして追加料金を払ってくださいと言うが"お金は払った"と彼女は主張する。続いて、フランス人女性(弁護士)が仲介して通訳をする。プレジデント(大統領)と名前の付けられた犬が1匹いる。女弁護士と乗務員が口論し始める。そして2人の乗務員は諦めその場を去っていく。続いて彼女は2等車からそのブラジル人女性の席の隣に座り会話をする…


さて、物語はフランス西部の街ナント行きの列車メーヌ・オセアン号に乗車したブラジル人ダンサーの女性が検札係に罰金を支払えと咎められている。そこへたまたま通りかかった女弁護士が通訳をしつつ彼らを追い返す。そして2人は意気投合し、一緒に旅をすることになる。まずは弁護士の依頼人の裁判を行うために一旦目的地と違う場所で下車し、裁判を行う。あっさりと敗訴してしまい彼女は憤慨しつつ、その地元とユー島へ移動する。そこで何の巡り合わせか…偶然にも先程の検札係の1人に出会い検札長まで誘い全員が島へと集まる。そこから恋とジャムセッションが繰り広げられ、彼女、彼らの旅が映される…と簡単に説明するとこんな感じで、この作品はロジエによる何故だか意気投合してしまう男女の物語を淡々と映し出している。

とりわけ、漁師とメキシコ人の興行師まで仲間に加わり、皆が島に大集結してからは一体誰が主人公なのか分からなくなってしまう。さらに学校の音楽の教員や地元のピアニストまで加わる始末。そして大演奏会が始まるシーンの長いこと長いこと…。そのおかげで海辺のバカンスと言う雰囲気が最後の最後まで現れてくれない。人々の退屈な日常の中に思いがけない出会いや喜びを130分と言う上映時間の中に入れ込んだ彼の秀作である。

とりわけポルトガル語からスペイン語、イタリア語そしてフランス語、英語とありとあらゆる言語が飛び交う作品も珍しく、こういった演出がこの作品には欠かせなく、それが重要な要素になってる。そしてネタバレになるためあまり上手くは言えないが、この作品は結局のところ主人公を選ぶとしたら◯◯になるのだと思う。そうすると案外風変わりな主人公設定だなと感じてしまった。


ラストの船から男性(検札長)が浅瀬に降りて別れる際のロングショットの映像が美しくて綺麗だ。そこからヒッチハイクをして日常の生活に戻る大団円は今までの彼の作品の代名詞の1つである。そうするとやはりバカンスの終わりをロジエは強調しているのかと思う。

それにしてもバストショットが目立つ作品だなぁと思った。それと舞台となった場所も美しく原風景に満ちていて近代的なパリ、モンパルナス駅から走るメーヌ・オセアン号から始まり、ル・マン、アンジェ、ナント、フロマンティーヌ、ボルニック、ユー島など…景観が徐々に風光明媚になるのも素敵だ。

この作品はラストシーンのパッカージュ・デュ・ゴアのフランス本土を結ぶ道のシーンが最も印象に残る。
Johnson

Johnsonの感想・評価

-
ピアニストとギタリストを呼んでから女に歌わせる。これで曲が一つ完成した。

何事も1人じゃ難しかったりやる気が出なかったりするのに、誰かとなら今までの事が嘘のように上手くいったりする。

普段はできるだけ1人で居たいと思うけど、ものづくりに関しては誰かと一緒にやる方が好きだと改めて思う。

難しく考えると人生は難しくなるし、簡単に考えると人生は簡単になるというシンプルさ。
zhenli13

zhenli13の感想・評価

3.8
人の関係性も場所も主軸がどこにもなく、ふわふわふわーっと広がっていく。
『オルエットの方へ』の彼が舟から舟を乗り継ぐ、その揺らぎの不安。砂浜をひた走るロングショットの、これ辿り着くのか?という不安。全篇宙ぶらりんな夢のよう。
小学生の頃に見たので、映画の内容は全く理解できず、ただただポカーン顔だった。
バカンス映画の特集上映ということで鑑賞したが、ソフトが廃盤になるほどの貴重作品だと知った今、しっかり目に焼き付けておくべきだったなと後悔している。
冒頭のシャイニング的カメラワーク、ラストの解放感溢れる映像が印象的。
見る機会があったらぜひ見たいのだ。
50分経って、やっと面白くなる。バーでの船乗りとの再会を、検札係の男のリアクションで見せる辺りがいい。しかし、船乗りの演技は過剰過ぎて萎える。赤い光を放つ灯台を背景に置いたダンサーのショットなんかいいけど、ここは顔に最低限の光を当てて欲しかった。
BB

BBの感想・評価

5.0
世界はかように途方もない。
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