Inagaquilala

スローガンのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

スローガン(1968年製作の映画)
4.0
いきなり列車の洗面所でヒゲを剃る男の映像で始まるが、これが劇中でCMディレクターの役を演じるセルジュ・ゲンスブールがつくった作品のフィルム。男は愛用のアフターシェーブローションが手元にないことに気づき、列車から飛び降り、オートバイを強奪して、近くの村のドラッグストアに乗り付け、気に入りのブランドのローションを手に入れる。そして、今度はとって返して、自分の乗って来た列車に追いつき、そのまま飛び乗り、無事に髭剃りを済ますというもの。もちろん、そのアフターシェーブローションのCMなのだが、これがなかなかオシャレで、冒頭からインパクトがある。

このCMで、どうやらセルジュ・ゲンスブールが扮する主人公セルジュ・ファベルジュは、ベネチアの映画祭で賞を獲得する。そのトロティーをそのまま無造作に手で掴み、ベネチアの街を歩く姿は、この役を演じているセルジュ・ゲンスブールにそのまま重なる。このワイルドでチョイ悪なCMディレクターが、映画祭でジェーン・バーキン扮する若いイギリス人女性のエヴリンにひと目惚れしたことから、物語は始まる。

セルジュには妊娠中の妻もいて、エブリンにも恋人がいたのだが、ふたりはパリに戻り、新しい生活を始める。実生活でも、この作品に出演後、恋人同士となったセルジュ・ゲンスブールとジェーン・バーキンだが、この作品は言わば、ふたりの出会いともなったもの。ヌーベルバーグの影響を受けた無声映画的な映像は、やや普通の恋愛作品とは趣を異にするのだが、そのライブなドキュメンタリー感が、実際のふたりの交際の進展と重なって、ファン(もちろん自分のことだが)には興味深い作品となっている。

音楽もセルジュ・ゲンスブールが担当しており、官能的で、アンニュイで、そして甘い。ふたりの競演作品としては、1969年の「ガラスの墓標」(ピエール・コラルニック監督)のほうが完成度は高いが、この実験的であり、野心的な作品もまた、なかなか味わい深い。パリとベネチア、ふたつの都市が舞台だが、60年代末のポップなムードが全編に漂う愛してやまない作品だ。DVDも所有しているが、映画製作から50年、ゲンズブール生誕90年を記念したリバイバル上映で、劇場でのスクリーン観賞。
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