Gewalt

アニー・ホールのGewaltのレビュー・感想・評価

アニー・ホール(1977年製作の映画)
4.4
序盤にユダヤ人の主人公と友人が「レコード店でワグナーを勧められた」ことに悪態をつく場面がある。これでニヤッとしてしまった人にはお勧めできる。この映画は終始このセンスとテンションに貫かれている。

インテリ気質で文化系オタクで精神科通いで他の人間の考えには反発したがるという主人公の人物造形が(非常に卑俗な意味で)尚現代的であり個人的に心を掴まれた。ああいう人Twitterでよく見る。
映像面ではゆったりとした長回しが特徴的。カットを控えて緊張感ある映像と役者の演技を堪能できる。が、この映画ではそこに第四の壁を自在にすり抜けるというもう一つの特徴が重なることで独自の手触りの映像を生み出している。映画は冒頭から観客への語り掛けで始まり、その後もしばしば突然に観客に語り始める場面が見られる。また主人公の内省をそのまま映像に投影する場面もある。(一例を挙げる。自問自答しながら歩く主人公が唐突にすれ違った人物に話しかけるが、その人物は適切に主人公とやり取りをする。)主人公たちが、映画全体に見られる、小気味よくやや衒学的な嫌いがある会話を長回しで繰り広げる。我々はその映像に没入していくが、突如主人公は"こちら側"を見て語り出す。一方的に見ている筈だった我々が見ている対象に見返されることで、没入は極上のスリルに変貌する。そこには独特の快感が生まれる。

映画は全体としては、主人公とヒロインの恋愛劇だ。ただそこにあるのはロマンチックな悲喜劇というよりは、肥大化した自意識のフリースタイルバトルであり二人はしばしば衝突する。彼らの破局は確かに感傷的だが、悲愴になり過ぎないはしない。それは彼らの恋愛がどこか自嘲的なものであり、見る者をその針の一刺しで目覚めさせるからだろう。
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