えんさん

アニー・ホールのえんさんのレビュー・感想・評価

アニー・ホール(1977年製作の映画)
4.5
大都会ニューヨークとは少々の変わり者でも生きていける街。山の手に住むユダヤ系のアルビーは、ナイト・ショーやTVのトークショーで稼ぐコメディアン。歳は40を迎え、離婚歴は1回あり、うだつが上がらなそうな風貌とは打って変わって、女の子には人気があるほうだった。そんなある日、友人のTVディレクターであるロブの紹介で、魅力的な女性のアニーとテニスクラブで出会う。会った早々から、互いに気になる関係となった2人はすぐデートを重ねる関係となっていくが、半同棲状態になってきた頃から、お互いのアラが見え始めるようになってくる。アニーにとっては常にアルビーの周りで仕事関係でつながる女性たちのことが気に障るし、アルビーのほうもアニーの奔放で掴みどころのない性格に戸惑う日々。やがて、2人の関係が行き詰まりを見せてきたとき、アニーはいきなりカリフォルニアに旅立ってしまうのだが。。大都会ニューヨークに生きる男と女の出会いと別れをコミカルに描いた1977年制作のラブ・ストーリーであり、同年のアカデミー賞受賞作品。監督は「スリーパー」のウディ・アレン。

毎年、必ず1本は新作を発表しているという御年83歳(2018年時)のラブ・コメディの巨匠ウディ・アレン。アレンの代表作でもあり、アカデミー賞受賞ということでもっとも知られる本作ですが、是非スクリーンで観たいと長年思っていて、今回の鑑賞となりました。今ハリウッドを震撼させているハラスメント問題で、アレン自身も告発されている側の1人でもあり、このまま引退してしまうのではないかと危惧しているのですが(もちろん、問題自身は解明の上、何らかの責任は負わないとはいけないとは思うのですが)、やはりアレン映画は年1回の(僕にとっての)風物詩的なところもあるので、作品作りを是非進めて欲しいなと思っています。

さて、そんな本作ですが、実はもう何回もDVD等で観ているので、もうストーリーどうのこうのというのはないかなと正直思います(笑)。アレン映画の良さを知りたいという初心者の方は是非観てみて欲しい。ラブドラマとしての味わいはもとよりですが、コメディとしてのテクニックがすごくドラマ作りの演出として光っている作品だと僕は思います。少し話はそれるかもしれないですが、僕が学生の時、観ていたダウンタウンであったり、ウッチャンナンチャンのコントで使われるような、主人公がドラマから離れて、カメラの前で独白したり、その独白に同じフレームの中にいる別の人物はドラマのほうに集中していたり、話の上で出てきた想像上の人物がいきなり登場して絡んできたりと、1つのフレームの中で、本当なら違う時空にいるであろう人たちが一緒に登場してシークエンスを作り上げてくるなんて、当時見た時はすごく衝撃的でした。こうした映画としてのテクニックが、日本のコントで輸入されて、私たちが普段見ることができるようなバラエティの要素として使われているということへのつながりを知るだけでも興味深かったりするのです。他にも、回想シーンの人物が現在の状況を独白したり、幼少期のトラウマをそのまま映像としてカットインさせたりと、いろいろなテクニックを駆使しながら、アルビーという人物を浮かび上がらせていく。それに対して、アニーのほうがやや不透明で、なかなか彼女の性格が掴めないことが、アルビーが惹かれる魅力でもあり、戸惑わせる要因でもあることを、観客にも追体験させるのです。これもなかなか凄い。

と書いてきたところでなんですが、僕は実はこの作品がアレン映画のベストではないんですよね。今回観てみても思うのですが、凄いというテクニックはふんだんに使われるんですが、その巧妙さが今見ると若干鼻につくように思うのです。やはり、登場人物の背景は観ている側が想像するほうが、1つ1つ説明されるよりはダイレクトに心に伝わってくる。本作と同様に人に恋い焦がれる気持ちと、自分の想いに素直になりきれないところで哀愁漂うドラマとなっている意味では、僕は「マンハッタン」がベストかなと思います。こちらも是非、見比べてみてください。