Kuuta

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのKuutaのレビュー・感想・評価

3.8
ソシアルクラブのメンバーの人生とハバナの風景が描かれる前半はまったりと見ていたが、カーネギーホールでのライブのため、彼らがNYに降り立つ場面で熱量が上がった感じがした。

なぜなら、初めて訪れる土地に目を輝かせ、自らの人生を振り返る老人たちの姿に、そしてNYのど真ん中でキューバの国旗を掲げ、堂々たる演奏でアメリカ人の喝采を浴びる姿に、異邦人を描き続けた監督の香りを確かに感じたからだ。

デカデカと「カールマルクス」と描かれた看板が通りに立つ、我々からすれば異様な光景。しかし、ハバナの古びた車や色褪せた海岸の風景は、行ったことがないはずなのに強烈な郷愁を誘う。この捩れ。

私はヴェンダースを、現実と虚構、二つの世界の狭間で、実在しない理想に心を奪われた人をテーマとする作家だと考えている。キューバという題材自体が作風にマッチしているし、キューバ人のメンバーの実存が込められた演奏と、映画という虚構を支えてきたアメリカ人のライ・クーダーのギターがアンサンブルを奏でる光景は、虚実が倒錯した奇跡的な映像のように思えてならない。76点。
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