ケンシューイ

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのケンシューイのレビュー・感想・評価

4.6
カードゲームの大富豪で言うなら、これは革命返しのような映画だ。今このタイミングで“トランプ”に例えるのも皮肉なことなのだけど。亡命ではなくて、そこに留まり続けた人達の物語。

長老コンパイ・セグンド氏を筆頭にこの御方々の奏でる音楽には、彼らの血管の中を通って流れているリズムのようなものを感じる。希望は悲しみだが、大好きな音楽には楽しみと喜びが満ち溢れている。

キューバ革命以降、その政治経済的な国際情勢を背景に、このキューバという国の中で暮らしていくことが一体どのようなものだったのか。赤く染まったこの国ではまるで時が止まっているかのようで、しかし、近くて遠い国アメリカへの文化的な憧れはこの映画の中でも見え隠れする。

ここには生活そのものに根付いた音がある。20世紀が終わる頃、自分はキューバの何を知っていたのか。アマチュア野球が強い国。葉巻を生産している国。カストロとチェ・ゲバラが革命を起こした国。まだまだ青臭かったその頃にはこの映画の良さがわからなかった。世知辛い世の中に揉まれて、つらく苦しんで、それでもどうにか耐え忍んで、そんな経験をすればするほど、この人たちの一音一音が生命の宿った音として心に響き渡って聞こえてくる。ライ・クーダー伝家の宝刀=スライド・ギターの音色もまたその一つ。単なる技術だけで泣いてるわけじゃない。魂揺さぶる感情移入。ただただカッコ良いでしかない。

あの頃に比べたら少しくらいは、この映画良いよって本心で言えるようになったのかもしれない。でもまだまだこれからもっと好きになれる映画なのだとは思う。