Mikiyoshi1986

パッションのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

パッション(1982年製作の映画)
4.0
12月3日はフランスが誇る孤高の映像作家ジャン=リュック・ゴダール監督のお誕生日です。
87歳おめでとう!

前妻アンナ・カリーナと離婚後、後妻ヴェアゼムスキーをめとった時期と同じくして、商業映画との決別を宣言したゴダール。
それから約11年に及ぶ紆余曲折を経て、再び商業映画へカムバックを果たした『勝手に逃げろ人生』は見事大成功を収め、
続く復帰作第2弾『パッション』では更に独自の第七芸術を発展させました。

かつて『軽蔑』で映画製作の裏側を描いたゴダールは、本作でも難航する映画製作の舞台裏を展開。
そこにはヨーロッパの長い歴史が育んだ"芸術"を受け継ぐ者としての矜持が存在し、
左傾化時代のゴダールがメインストリームに不在中、シーンは益々ハリウッド主体の映画産業へと変遷していった実情に切り込んでいます。

自然光によって積み重なり、歴史を育んできた芸術を映画という分野で具現化しようとする苦悩は、ゴダール自身の吐露でもあります。

袂を別った元・盟友トリュフォーは『アメリカの夜』で映画製作の舞台裏を描き、疑似夜景の撮影方法を意味するタイトル『Day for Night』をつけていたわけですが、
ゴダールが『パッション』で光(とりわけ自然光の再現)にこだわった内容はトリュフォーに対する彼なりのアンサーとも受けとれます。

これにはゴダールが商業映画から離れたすぐ後、『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』のベルモンドを主役に迎えてトリュフォーが故意に『暗くなるまでこの恋を』を制作した経緯も含まれると云って良いかも知れません。

また本作は高い撮影技術で映像を構築したラウル・クタールの功績無しには語れません。
(実際その成果は認められ、撮影監督クタールはカンヌ映画祭にて技術大賞を獲得!)

ゴダールはジガ・ヴェルトフ集団時代からの変わらぬ階級闘争的テーマや東側(ここではポーランド)の社会情勢など政治的メッセージを盛り込みつつも、ざっくりとした人間関係や恋愛模様をまばらに配することで商業映画という体裁を守っています。

ゴダールの情熱"パッション"は未だに衰えることなく、常に新しい挑戦を続けている生涯現役の映画戦士なのです。
Mikiyoshi1986

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