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愛染かつら 前後篇のニューランドのレビュー・感想・評価

愛染かつら 前後篇(1938年製作の映画)
3.6
どういうわけか、タイミングが合わず、またこのメディア鑑賞歴初期はあまり気にしてなくてやり過ごしてたのもあり、今回初めて観た。総集編で随分短くなってて、時間の重みや細かい経緯の具体描写、或いはダメ押し的説得力・余韻に欠けてるが、脚本の組立・進行・絡まりの見事な効果の表す力と気品、演出のシンプル・スッキリで嫌味皆無のこの作家の才の最大限の結実、役者の曇りない正直な役の主張と存在、今・月9や韓流の枠にはめ込んでも秀でるだろう名作だ。
セット・バジェットは当初シンプルというより貧弱だが、看護婦の量・画面埋め込み等増えてきて、そしてきら星の如くにスター・名優がふんだんに散りばめられてきて(主役ふたりをパターンに沈ませず、覚醒させる桑野通子は縦横無尽の意志・行動力、ドラマや映画をはみ出してもお構い無し、むしろスッキリくる)、客船の動感や応接の深い対応の外内ダイナミズムが突きだしてくる。俳優の正面バスト図の微塵もの気後れなさ、俯瞰めや縦めの透徹、最小最大効果の切返し・どんでん・90゜変のスッキリ無駄ない切り結び、横移動の人物群や状況捉え、DIS・FO・WIPE、動きの追いや2場対応スリルのカッティング、等もだが、多用も常に新鮮、初めて発見された手法如くの力・はみ出しを持ち作品の価値を決定したのは、縦運動・アクチュアリティ持って力溢れ寄ってく、(背越し・斜め)フォローや対象肉薄へ向かう・移動(時に横めフォローも)の、パターンなく映画を各々に突き抜けた生々しさだろう。
「静かに辞めて身を引くつもりでしたが、残って若先生を探せと仰るなら、見つける結果が逆にそちらを窮地にも。」「私を見損なわないで、あなたを退けて浩三さんと結婚なんて。どちらが結婚ではなくて、浩三さんを幸せに出来るのはどちらかという事。貴女も好きな人を求めるなら、覚悟を決めてとことん進んで。」「(経営難の為の向こうは婚姻・援助受けに? )私が結婚せず、持参金を自分の物にできるとして、津村医院を救いたい、と云ったら。」「貴女の夫亡き後の子育ての苦労の過去、看護婦仲間の助力・友情も知った。改めてこれまでを水に流し、将来を約束する愛染桂へふたりで向かうに戻る事へ。」
昨日、久し振りに再見・三見してもとより最高の映画と思っていたも、改めて激しく書き付けるを抑えられなかった芳亭作品に比べると、若干肉づきや肌理がよくないけれど、巧みな流れ流されてゆくメロドラマの妙というより、メロドラマの編み目を縫いながらも、誤解や行違いを拡がる前より塞き止める、強く姑息さと無縁の、意志の力のヴァリエーションが謳歌を停めることのない、全てに通じる人間讃歌のように思えた。押し付けがましさ、嫌味と無縁の、只清々しく併走してくれる、マラソン・一流ランナーを感じるような。
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