クロ

エルミタージュ幻想のクロのレビュー・感想・評価

エルミタージュ幻想(2002年製作の映画)
4.5
18世紀半ば帝政ロシアの水の都サンクトペテルブルク、エカテリーナ2世の美術品蒐集癖に端を発し、「隠れ家」を意味したエルミタージュ美術館、100年かけて歴代皇帝が宮殿を増設し、今300万点を所蔵する。エルミタージュ小劇場、ラファエロの回廊、ルーベンスの間、聖ゲオルギーの間、ピョートル大帝の間、小食堂の間、大広間、、全長20kmの迷宮のうち1.5kmをカメラは一時間半で駆けぬける。

芸術への崇拝と権力の誇示が渦となって呑み込んできた、ダ・ヴィンチ、ラファエロ、ルーベンス、ヴァン・ダイク、レンブラント、エル・グレコ、、ヨーロッパへの憧憬。ロシアの方舟。

美術館の生の過程における「ひと呼吸」の中で蜉蝣のごとく通り過ぎた人々。レンブラントの「放蕩息子の帰還」に頭を垂れる男、「この絵と私の間には秘密がある」と無言で「ダナエ」と愛を語らう女、グレコの「聖ペテロとパウロ」の前で答えの無い問いに耽る少年、大広間でミハイル・グリンカのマズルカに乱舞する人々。

中世から近代芸術への愛、そして、聖なるものの黄昏へのひめやかな哀悼が作り出した幻燈。

大舞踏会の熱狂は開け放たれた扉から、エルミタージュの幻を浮かべるネヴァ川のしじまに溶けてゆく。