本作の田宮二郎も一切何を動機に行動しているのかがわからない役柄ではあり、本人は金のためと言いながら冒頭で加東大介にしてやられたことに対する報復であることは何となく伺えるものの、謂くありげに登場する藤由紀子に突き動かされていることは間違いなく、その点でノワールものとして大いに楽しめる。増村の映画では、それまで溝口が描いていた「悪」をより現代風に解釈しているように思えてならないのだけど、本作では船越英二に電話をさせる場面で、石黒達也が画面では背もたれに隠れつつ葉巻の煙で存在を知らしめるショットが秀逸。