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恐怖分子のpanpieのレビュー・感想・評価

恐怖分子(1986年製作の映画)
4.2
やっとレンタルする事が出来ました。
「牯嶺街少年殺人事件」を観てからエドワード・ヤンの光と影の対比の美しさに魅せられていつか必ず今作を観たかったのでやっと念願叶いました。

1986年制作なのに日本公開が10年後の1996年だったんですね!
デジタルリマスター版が2015年公開と未だファンが多いエドワード・ヤンが今もなお語り継がれる訳が今作を観て私にも前より少しだけ分かった様に思いました。

カメラマンの男とその恋人、子供を流産した小説家志望の女とその夫、小説家志望の女の元カレ、刑事、ある事件から逃げ延びるが犯罪に手を染める美しい少女、そして少女の母親。
登場人物が複数いてそれぞれのドラマがありラストに持って行くまで全く交錯しないのだけど少しずつ登場人物が繋がっていく。
圧巻。
こちらの方が本家なのかもしれないのだけど「バベル」を思い出した。
あれも全く違う国での出来事が繋がっていくストーリーに驚かされ舌を巻いたのだけどその遥か前にエドワード・ヤンはやってのけていた。
正確にはエドワード・ヤン以前にもこのスタイルの映画があったのかもしれないが私の知る限りでは今作が最も前な気がする。

凄い繋がり方でした。
でも人生は突然の出会いだったり別れだったり思ってもみない方向へ進む事もありとても深かった。
会話も重要ではあるものの無言の演技、特に視線の訴える力が凄かったです。
109分なのでそう聞くと短い映画だと思いますが私にラストに向かうまでとても長く感じました。
案外日常で起きている事件は水面下で驚く様な繋がりがあったりするのかもしれません。
台湾の映画とは思えない程何処の国で起きてもおかしくない出来事を描いています。

妻に一方的に別れを告げられた夫が不憫でなりませんでした。
流産し子供を亡くした苦しみは夫も同じなのに自分は元カレと浮気しておいて書けなくなったのは夫のせいと言わんばかりな身勝手な妻が許せなかったです。
新しい生活を始める為に別れるとか何言ってんの!
好きな様に生活させてもらっての妻の身勝手さに腹が立ちました。
おまけに昇進を約束されていたのに部下に課長の座を取られて踏んだり蹴ったりでラストの凶行へ走った気持ちもちょっとは分かりました。
親友の刑事宅へ課長へ昇進したと嘘をついた時は何で?と思いましたがここでは既に腹をくくっていたのでしょう。

少女役の女の子が福山雅治さんの妻吹石一恵さんにどことなく似ていた様に思います。
スラッとしていてスレンダーで私好み。
でも母親がそんな悪い事に走る娘を外に出さない様に監禁したりそれが一層外の悪い世界に向かせる結果となる。
皮肉なものですね。
娘の母親としてお母さんの気持ちも分かるけど抑圧すればする程追えば追う程娘じゃなくても誰でも人は逃げたくなると思います。
私の娘は幸いにして悪い方へは向かなかったし私が厳しく門限を親に決められて育ったせいか自分の娘には部活で打ち上げがあって11時を過ぎて帰ってくる事があっても地下鉄駅迄迎えに行ったりそれを咎めたりはしなかったので良かったのかななんて親目線でも彼女を見てしまいました。

少女を写真に撮って魅了されていくカメラマンの男の子は実家がとても裕福なのには驚かされました。
彼は監禁されてはいないけど裕福な実家では想像できない圧迫感があるのかそこから出て恋人の元へ戻るのもやはり逃げ出したいからなのかもしれない。
香港にも徴兵制があるのですね。
その通知を受け取ってまた恋人の元に戻って行くからそれから逃げたのかな。

刑事の服装が刑事らしからずシルクのブラウスに刺繍が施してありサングラスも似合わない!笑
誰かに似ているのだけど分からずもどかしかったです。
でんでんかな、なんて思ったり。

今作でも光と闇を描いているシーンがあり光が当たっていても今作では人間の心の闇を描いていると思いました。
プラターズの名曲〝Smoke Get In Your Eyes〟が印象的でした。
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